米国はインフレ最悪期通過でも新たな懸念がある FRBは結局5%超まで利上げを続ける可能性

✎ 1〜 ✎ 199 ✎ 200 ✎ 201 ✎ 最新
拡大
縮小

今後、利上げ到達点や打ち止めが近づけば、FRBへの懸念が解消されるとの見方もありうる。ただ、より懸念すべき点がある。それは、政策金利は4%に達して引き締め領域に入っているとされるが、今後予定される5%超への利上げによって、金融引き締め効果が強まりすぎる可能性である。

アメリカの個人消費が今後一段と落ち込む可能性も

現在のFRBの姿勢には、ブラード総裁らタカ派の政策が影響しており、遅行指標であるインフレ指数の動きを重視する対応に傾斜している。このため、利上げ打ち止めの政策転換が実現しても、そのタイミングが遅れ、2023年以降の経済活動への引き締め効果が大きくなるリスクが大きい。

新型コロナウイルス大流行後の世界的な株価急騰の反動もあり、2022年にはアメリカ株が反落して逆資産効果が生じた。ただ、貯蓄率が低下する中で、サービス業のリベンジ消費需要が旺盛だったこともあり、個人消費は減速したが緩やかながらも増加が続いた。

それでも、利上げの効果で住宅価格も足元で下落に転じており、2023年には逆資産効果が広がり、個人消費が一段と下押しされる可能性がある。

また、2022年までは企業利益は減速しながらも改善が続いていたので、企業による設備投資も拡大が続いた。だが、FRBの金融引き締めによって銀行は貸出態度を厳格化させており、銀行貸し出しを通じた金融引き締めの効果が2023年に顕在化、企業の設備投資をより抑制するリスクがある。これらをうけて、国内総需要全般に下押し圧力が強まり、アメリカ経済全体は一定期間景気後退に至る可能性が高い。

もちろん、2023年のアメリカ経済の景気後退は、金融市場でも相応に意識されている。ただ、景気後退は回避されるとの見方もまだ根強く、完全に織り込まれたように見えない。筆者はリーマンショック前後のような深い景気後退を予想しておらず、半年から9カ月程度の短期間の景気後退を想定しているが、それでも経済縮小は避けられないのではないか。

2022年に株価は下落したが、アメリカ経済は減速しながらもプラス成長を保っていたので、企業業績は緩やかな減速にとどまっていた。2023年にはマイナス成長を伴う景気後退となる中で、企業利益は落ち込むリスクがある。このため、現在株式市場で想定されているよりも、企業業績予想が下方修正される余地はかなり残っているように思われる。

2022年は、FRBが制御に苦しんだ高インフレに対する不確実性が、アメリカ株市場を下落させる要因になった。それに代わって、利上げによる景気縮小効果が強まるという新たな不確実性に対する懸念が、2023年前半まで金融市場で大きく意識されるのではないかと筆者は考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT