贅沢?子どもに「地方で自然体験」させる深い意味 勉強漬けの毎日では学べないことがそこにある

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安全を確保しながら、スタッフにもきちんと対価を払うには適正な価格設定が必要だ。しかし、それがある意味の「教育格差」を広げてしまうのではないかという問題意識が、運営側の抱えるジレンマだ。

神田さんは地元の子ども向けにはほぼ無償で「海の寺子屋」という授業も行っている。

MORIUMIUSもまた、コロナ禍で平日にあった企業の新入社員研修や公立学校の林間学校利用などが激減し、経営は楽ではない。それでも、寄付や助成金などで児童養護施設に通う子どもや、家庭が困難な環境にある子ども、熊本地震の被災者などにもオンラインを通じてこうした体験をしてもらえるようなプログラムも実施してきた。

自分の生き方を選択するきっかけとなる体験を

より直接的に、「体験格差」の解消のために動き出した団体もある。

さまざまな社会課題の解決に取り組む株式会社Ridiloverは、今年からNPO法人キッズドアと連携し、経済的に困難な状況や社会的に孤立しやすい状況にある中高生向けに、新潟県越後妻有で開かれる国際的アートイベント「大地の芸術祭」へのツアーを実施しはじめた。「地方への旅を通じて、子どもたちが、希望を持って自分の生き方を選択するきっかけとなる体験を創り出していく」ことを目指す。

Ridiloverの安部敏樹代表は「体験というと贅沢品のように思われて、フードバンクとかのほうがいいのではとか、支援しなくてもいいのではと思われてしまう。でも、中高中退率や大学進学率、その後の所得等にこうした体験が影響する可能性もあると考えています。

介入実験のような形でデータを取らせてもらって、参加者に5年後、10年後どのような変化がでてくるか検証したい」と話す。

Ridiloverはもともと、教育委員会等に働きかけるなどしながら、修学旅行先での様々な体験学習の機会を提供してきた。「子どもへの体験学習の提供は未来への投資。校外学習を単位にしてもらうとかバウチャーを配るとかして、この分野へ国として教育投資をすべきだと働きかけていきたい」と安部さんは話す。

地域の持つ資源をどう守り、生かし、それを一部の感度の高い家庭だけではなく幅広く子どもたちに経験してもらうのか。衰退していく国で持続可能な循環を生み出す重要な鍵のひとつが、子どもたちへの投資であることは間違いない。

ジャーナリストの中野円佳さんによる連載、第13回です(画像をクリックすると連載一覧にジャンプします)
中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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