「パパのほうが稼いでる」と子どもが思い込むなぜ 幼い子が無意識に「性差別発言」をしてしまう訳

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先ほど、ジェンダーに関して親が子どもに間違ったメッセージを送りがちだと述べました。少しわかりにくいこの部分から説明しようと思います。

娘を妊娠中、私は友人や親戚から女の子向けグッズをたくさんもらいました――リボンの髪かざり、着せきれないほどの数のピンク色の服。私自身も、上の子が男の子だったので、娘が生まれたらひらひらの可愛い服を着せようとワクワクし、そこに何の疑問も感じていませんでした。

私たちは乳幼児に対しては、いわゆる「男尊女卑」のような扱い(男の子をもてはやし、女の子を軽視する)はしないものです。それでは、こうして社会が日常的にジェンダーの違いを認識し強調すると、どんな問題があるのでしょうか?

私は先日、発達心理学者のレベッカ・ビッグラー氏をたずねました。大御所との面会に緊張していた私に、ビッグラー氏は気さくに応対してくださいました。少しひょうきんで、熱心なフェミニストで、とても頭の回転が速く、親戚のかっこいいおばさまという雰囲気の方です。笑顔が印象的で、ロングの髪は染めずにグレイヘアです。

担当の美容師は残念がっているでしょう(わざわざこの点にふれるのは、「女性は白髪染めをして当然」という考えも性差別の一種だと思うからです。ビッグラー氏のグレイヘアは、「自分のあり方や外見について他人の指図を受けない」という自己表現なのです。美容師が「女性は白髪染めをすべき」と言わない社会にしたいと強く望んでいる証です)。

私たちは、親が性別について大騒ぎすることの問題点を話し合いました。簡単に言うと、子どもの脳がその情報をどう処理するかとその理由が、問題の根源だそうです。

幼い子どもは、無邪気で責任能力がないように見えるかもしれませんが、実は周囲の人々の言動を注意深く見聞きし、何が重要かを見極めてから行動しています。

言語だけを取り上げて考えても、子どもはごく幼いうちから周囲に適応し始めます。そんな中、性別の違いの重要性に関するメッセージもしょっちゅう受け取っているのです。

個人を区別する外見上の特徴はたくさんあります――髪の色や長さ、目の色、肌の色、利き手がどちらか、身長、体重など。それなのに、人と話をするときに性別ほどしょっちゅう口にする特徴が他にあるでしょうか?

「彼」「彼女」という言葉を使うたびに性別にふれますが、他の特徴にはふれません。「性別を個性のように扱っている」とビッグラー氏は言っていました。もし、誰もがつねに髪の色について話す世界に住んでいたら、子どもは髪の色を「とても重要なもの」と考えるはずです。私も白髪染めをし始めるかもしれません。

固定観念の問題

言葉以外で私たちが性別の違いを重視し、男女を区別している例を考えてみましょう。トイレ、スポーツチーム、おもちゃ売場は男女別々です。一部の学校は男女別学です。私の子どもたちが通う男女共学の学校でもよく、生徒を男女別に分けて並ばせます。

くり返し何度も、「性別は最も重要な社会的カテゴリーである」という考えが子どもに植えつけられます。これが問題の始まりです。

子どもは性別の違いの重要性を認識すると、次にその意味を理解しようとします。

ビッグラー氏は、「子どもたちは心の中で『一日に何百回も女の子だって言われるのには、何か意味があるはず。女の子と男の子の違いには重要な意味があるんだ。そうじゃなければ言わないでしょ?』と考えるのではないか」と言います。こうして子どもは推側し始めるのですが、ここに問題があるのです。

次ページ「女子はピンク色が好き」と子どもが一般化してしまう理由
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