特殊清掃現場があぶり出した「孤独死」の二極化 周囲に助けを求められず、こぼれ落ちる人々

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酸素が薄いこの部屋で、男性は独り寝食をしていた。床を埋め尽くすのは、コンビニ弁当など食べ物のゴミ。キッチンにはなだらかな山を築く形でゴミが積もり、男性はそこに埋もれるように息絶えていた。独身で、退職後マンションに引きこもるようになっていたらしい。異変に気がついたのは近隣住民だった。マンションのフロア全体に暴力的な悪臭が立ち込めていたからだ。長期間放置されすぎて、死因は不明だった。

前述の女性もこの男性も、部屋の清掃依頼をしたのは管理組合である。遺族が関わりを拒否したり、相続人が不明だったりしたためだ。それでも不衛生な状態は放置できず、管理組合の理事たちが困惑しながら対処に当たる──。無縁社会を地でいくような話だが、もはや特殊清掃の現場では日常風景だ。

日常風景となった「無縁」

コロナ禍では一家で孤立していたケースにも遭遇するようになった。熱中症で命を落とした50代の女性は、精神疾患を抱え、ある時期までは両親と支え合って暮らしていた。しかし父親が亡くなり、母親は病気で施設に入ってしまう。現場に立ち会った福祉関係者は悔いていた。女性が「これから1人でどうやって生きていったらいいのか」と戸惑い、逡巡した形跡のあるメモを見つけたからだ。

一人暮らしであれば民生委員が訪ねることもある。しかしこの一家は単身世帯ではなかったため、女性への支援が遅れた。家に取り残された女性は、どれだけ深い孤独と絶望の中にいたのだろう。

家の中にぜいたく品はいっさいなく、生活を極限まで切り詰めていたことがわかる。その理由はすぐにわかった。福祉関係者が数千万円の貯金を見つけたからだ。女性の両親は、いずれ残される娘のために必死で貯金をしていたのだろう。しかし結局その大金は、女性のために使われることはなかった。

コロナがあらわにしたのは、離婚や死別、失業、病気などにより、社会や地域とのつながりが切れ、孤立し、その場に崩れ落ちてしまった声なき人々の姿だ。何度も言うが、孤独死そのものではなく、個人や家族が社会から疎外されていたことに、悲劇がある。

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