特殊清掃現場があぶり出した「孤独死」の二極化 周囲に助けを求められず、こぼれ落ちる人々

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コロナ禍でとくに深刻な状態へと陥ったのは中間層だ。彼らは少なからず預金があったり不動産などの資産を持っている。そんな一般の人々が親族や近隣との「縁」から切れた結果、セルフネグレクト状態へ陥ってしまう。結果、長期間にわたって遺体が発見されないという事態が頻発している。

「餓死か、凍死だと思う」

ある業者から連絡が入ったのは、コロナ禍が始まってすぐの頃だ。都内某所のマンションの一室を訪れると、部屋にはエアコンがなかった。木製のシングルベッドには、掛け布団や毛布すらなく、赤茶けた薄いタオルケットがあるだけだ。

若くして妻と死別

冬の極寒も夏の猛暑も、男性は独りこの部屋で耐えていたのだ。男性は、かつては個人事業主でこの部屋に妻と2人で住んでいた。しかし、若くして妻と死別。腰か足を悪くしてからは、貯金を取り崩して生活していたらしい。トイレには補助用の新しい手すりがあったが、医療や介護などの福祉サービスとつながっている形跡はなかった。即席麺やソースなどが床に転がっていたものの、最後には食べる気力すら失っていたようだ。

「部屋の状況と体液の量から推測するに、彼は栄養の行き渡らない体で徐々に衰弱し、最後は冬の寒さで凍死したんだと思う。晩年は、熱さ、寒さなどの感覚すらなくなり、彼の目には季節さえ灰色に染まっていたんじゃないかな」

清掃を手がけた業者は、やりきれない表情でそうつぶやいた。男性が妻を亡くした後にセルフネグレクトに陥っていたことは明らかだった。離婚や死別、失業をきっかけに社会から孤立し、不摂生となり、命を落とす人が男性には多い。妻や仕事を通じて保っていた社会とのつながりが切れたことで、一気に身を持ち崩してしまうのだ。

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