企業の命運を左右する「ブランディング」の本質 「お客様のために」で失敗した大塚家具の蹉跌

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「ブランドのコアを定めることで顧客エンゲージメントが高まり、それによって従業員エンゲージメントが高まり、ブランドの価値がさらに高まるという好循環が回ること」がブランディングの効果だと言えます。

「BRANDING」とは「BRAND + ING」から成り立ちます。INGは進行形であり、継続することが大切だという意味を含んでいるのです。

ブランドのコアを定めるために特に重要なのが顧客理解、すなわち顧客視点でブランドを見直すことです。ここで難しいのは、顧客視点というのは、「顧客にとって良いと思うこと」や「顧客が喜んでくれると思うこと」を想像するのではないということです。「思う」を強調しているのは、この言葉の主語を考えてほしいからです。自分たちがそこに顧客が価値を感じてくれるだろうと予想するだけではだめなのです。

このことがとてもよくわかる事例が、大塚家具の一連の騒動です。元々大塚家具は「高級家具」のブランドでした。会員制によってプレミアム感を演出し、会員相手ゆえの行き届いた密着営業をしてきました。大塚家具の顧客は「お得意様扱い」にブランドとしての価値を感じ、ファンとなっていました。この路線は、創業者である大塚勝久氏が敷いたものです。その結果、バブル崩壊後も成長を続け、2001年12月期には営業利益がピークを迎えました。

高級家具路線を捨てて中途半端に

しかしその後住宅需要の低迷や、ニトリやイケアなどの新興勢力の台頭などがあり、業績が低迷しました。2009年には、勝久氏が社長から会長に退き、長女の大塚久美子氏が社長に就任しました。

久美子氏は、勝久氏が打ち立てた高級家具路線を、「受付や接客に抵抗を感じる」、「価格が高そう」といったイメージを顧客に与えると問題視しました。このままではニトリやイケアに勝てないと考えたのです。そこで、気軽に入れて、自由に選べて、値段は中価格帯で、気軽に単品買いができる店舗を目指すことにしたのでした。

ここで重要なことは、久美子社長は、「お客様のためであり、お客様が喜んでくれる」と考えて、路線変更をしたということです。実際、この路線変更により10年来減り続けていた来客数が増加に転じ、業績も一時的に回復したのでした。

その後、「お家騒動」の影響もあり、赤字に転落。最終的にはヤマダ電機の持ち株会社であるヤマダホールディングスに買収され、久美子社長は辞任、2022年5月に大塚家具の法人格は消滅、ブランド名だけが残ったのでした。

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