企業の命運を左右する「ブランディング」の本質 「お客様のために」で失敗した大塚家具の蹉跌

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数々のデザイナーとのコラボレーションを成功させてきたユニクロ。その中でも伝説的デザイナー、ジル・サンダー氏とのタッグによる+Jシリーズは、大きな話題を呼びました。

2009年の+J初登場後、2020年秋冬コレクションとして久しぶりの復活。発売日には取り扱い店舗に長蛇の列ができ、その様子は多くのマスコミにも取り上げられました。その後、2021年春夏コレクションでも好評を博し、売り切れが続出。続いて、21秋冬コレクションで終了しました。

しかし、+J最終章と銘打ったこの21秋冬コレクションではこれまでのシーズンと異なり、アイテムによって多くの売れ残りが発生しました。その理由は、価格設定にあったとマーケティングの専門家は言います。品質を重視し、他のシーズンより少し高めに設定されたことが、「ジル・サンダーにしては安い」ではなく、「ユニクロとしては高い」という印象を強めてしまったと考えられます。ユニクロのブランドコアである「コストパフォーマンスへの期待」への裏切りが招いた結果とも言えるのではないでしょうか。

キャンペーンやイベントの売上が芳しくないぐらいであれば、ブランド棄損のダメージとしてはマシなほうかもしれません。株価が著しく下がった例もあります。

バルミューダが犯したミス

バルミューダ社はトースターの大ヒットをはじめ、機能をシンプルに絞ったデザイン性の高い商品を提供し、「モノではなく、上質な体験を売る」というブランド戦略が同社を育てていきました。ユーザーの視点から見れば「デザイン性と感動的な使用体験への期待」がブランドのコアであったと言えます。

2021年同社が、突然スマートフォン市場への参入を発表したときには、アップルやサムスンにまったく水を空けられてしまった国産スマートフォンの復活を期待する声が至るところで聞かれました。ところが実際に市場に投入された商品は、「感動的な使用体験への期待」を裏切るものであり、同ブランドの最大の特徴であるはずのデザイン性においても一昔前の凡庸なものと評価されてしまったのです。

実はビジネスとしては失敗だったとは言えないという見方もあります。そもそも100人に1人が欲しいと思えば、バルミューダの業績に十分貢献し、もし失敗して撤退しても先行投資を安く抑えているので致命的な影響はなかったというものです(参考:ITmedia ビジネス「バルミューダフォン今日発売“酷評”でも100人中1人が欲しければ大成功になる意外なワケ」)。

しかしブランド価値の棄損の影響はやはり大きく、バルミューダフォンの発売以降、株価は大幅に下がり続けたのでした。これは、まさに一つのプロダクトでブランドの期待を裏切ったことで、コーポレート全体のブランドへの評価を下げてしまった例と言えるでしょう。

『手にとるようにわかる ブランディング入門』P.91より
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