看護界の重鎮が91歳で新雑誌を創刊した切実事情 看護師を"ミニドクター"にすることへの疑問

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川嶋:「て・あーて」の1つとして、患者さんにオイルマッサージを行います。患者さんの手足にオイルマッサージをしながらコミュニケーションを図ると、患者さんの苦悩や不快、不安を軽減することにつながります。マッサージで血流がよくなるため、病気による手足のむくみの改善も期待できます。

オイルマッサージのほか、「熱布バックケア」も勧めています。患者さんを腹臥位(ふくがい:顔は自然に横を向いた状態でうつ伏せになること)にして、温かいタオルを背中に当てていきます。温タオルで身体が温まることで血液の循環がよくなり、免疫力が向上して食欲が出る効果があります。また、腹臥位にすることで肺の血管が拡張して酸素を取り込みやすくし、温熱刺激で深呼吸を促して自然にたんが出やすくなり、チューブでたんの吸引をしなくて済むようにもなります。

「手を触れる」ことを、見直してほしい

川嶋:日本語の「触れる」という言葉には、直接触れるというだけでなく、心に触れるという意味もあります。心をこめた手で触られれば、相手は共感されている、支えられている、励まされていると感じ、苦痛や緊張が緩和され、心拍数や血圧が下がったりすることがあります。「触れる」効果にはエビデンスがあるのです。肌に触れることで愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌され、リラックスするのです。この「手を触れる」ことを、見直してほしいと思っています。

医療機器が示す数値でしか患者さんの苦しさがはかれない看護師が増えているのは、危機的状況です。看護の基本は苦痛の緩和です。それは、がんの痛みをモルヒネで調整することばかりではない。看護師が患者さんのそばにいてマッサージをし、足浴を行うことで苦痛を緩和することができ、そうやって生活の質を高めるケアこそ、看護師が独自にやらなければならないのです。

──本来の看護である「療養上の世話」ができない要因はどこにあるのでしょうか?

川嶋:診療報酬のあり方に問題があります。看護師が予防医療に尽くすと、病院の収入にならないという、大矛盾が背景にあるからです。

診療報酬では検査をすると何点、手術をすると何点、といった具合に点数が決められていて、その点数に応じた収入が病院に入ります。診療行為には診療報酬で保険点数がつくため病院の収入につながる一方、療養上の世話は保険点数化されていないため、おろそかになっていきます。

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