看護界の重鎮が91歳で新雑誌を創刊した切実事情 看護師を"ミニドクター"にすることへの疑問

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(撮影:梅谷秀司)

川嶋:身体を拭いて清潔を保つことを私たち医療従事者は「清拭」と呼び、看護師は清拭をしながら患者さんの皮膚や呼吸の状態などを観察し、異常がないか確認していきます。「今日はどうですか」と声をかけながら丁寧に身体を拭くことで、気持ちよくなり「副交感神経」が優位になって、免疫力が高まっていくのです。ああ、だから、トシエちゃんは元気を取り戻したのだと、これはあとから気づいたのです。

看護師が行う「療養上の世話」の内容

──トシエちゃんのエピソードから、ケアの重要さがわかります。看護師の業務は法律で定められていて、1948年にできた保健師助産師看護師法によって「療養上の世話」と「診療の補助」が看護師の2大業務とされています。「療養上の世話」とは、どういったものになりますか?

川嶋:まず、医師の指示に従って行う採血や点滴、医療機器の操作などが「診療の補助」で、看護師が主体となって患者さんをケアするのが「療養上の世話」になります。

療養上の世話とは、生活行動を援助することに当たります。生活行動には、「息をする」「食べる」「身体をきれいにする」「トイレに行く」「眠る」といった直接生命に関係する営みと、「コミュニケーション」「学習」「趣味」などの人間らしさを保つうえで欠かせない営みとがあります。これらは、他人が代行できるものではありません。自分が行って初めて満たされるものです。

人間が人間らしく生き、その人らしさを尊重されて生きていくうえで欠かせない営みを支障なく継続できるようにする。患者さんの自然治癒力を高めることが「療養上の世話」なのです。保助看法で2大看護業務に位置付けられているのですから、看護師は法的に生活行動の援助をする責務があるのです。

(解説)
ところが看護師が忙殺されるあまり、患者に触れる機会は減っている。多くの病院では看護師が清拭することがなくなり、介護職や看護補助者に委ねられている。看護師は患者の顔や身体の状態を見ることもままならず、医療器械が示す数値ばかりを見ているのが現状だ。看護師の業務は拡大し、ますます「診療の補助」が優先されるようになっている。
それというのも、団塊世代の全員が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」に向け、医師不足を補うために看護師が医師の業務の一部を担うことになったからだ。
高齢化で在宅医療も増え、医師は圧倒的に足りない状態。そこで、医師が行う医療行為の一部を看護師に移譲する「特定行為に係る看護師の研修制度」が2015年10月に始まった。

本来は医師法によって、診断と治療は医師のみが行う。看護師は保健師助産師看護師法によって、医師の指示の下で診療の補助を行う。だが、医師が行う高度な医療行為のうち38行為が「特定行為」として定められ、一定の研修を受けた看護師は、医師があらかじめ作るマニュアルの「手順書」によって、その範囲内であれば、その場に医師がいなくても看護師は特定行為ができるようになった。
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