魚は日本にとって有利だと述べたが、意外な盲点もある。大会当日は、スコットランド産のあんこうを使用することが決まっている。当然ながら、日本では手に入らない。あんこうは水分の多い魚だけに加熱が難しく、上手に火入れすればゼラチン質がぷるぷるとし、見事な食感に仕上がるが、それも現物を触ってみないことにはなんとも判断がつかないのだという。
しかも、日本のように適切な処置が施された魚でないとすると、高度な味に仕上げるのは厳しい。そうした難しさは肉のテーマ以上だ。なんとかして送ってもらえないかと、四方に打診しているが、今のところはそのメドが立っていない。
おろすのはダメ?規定の解釈に難しさ
とはいえ、大会は1月末、着々と準備を進めていかなければ間に合わない。「現状では、組み合わせる素材、調理法の可能性、塩の多少などを、何十通りも試している段階です」と、今回日本代表となったシェフの石井友之氏(ひらまつグループ「アルジェント」所属)は話す。
コンテストの料理と聞くと、構成が整っており、盛り付けが美しければいいのかと思われるかもしれないが、何より味が大切なのだそうだ。試食審査の経験を持つ浜田統之氏(星のや東京総料理長)らによれば、どの皿も一口食べて「うまっ!」と声が出るほどおいしいのだという。微差が左右する厳しい戦いだ。
先述した規定の解釈も難しい。「再構築がダメ」ということは、魚をおろせないのか?骨を取り出すことは可能なのか?ということがまずわからない。頭もなく、骨もなければ、だし(フュメドポワソン)が引けず、ソースが作れないという問題が出てくる。
そうした質問を、ボキューズ・ドールの本部に送ると、毎週末、参加24カ国の出場者に返信が送られてくる。今回もキッチン審査を務める長谷川幸太郎氏(「ダウンタウンキュイジーヌ コータロー ハセガワ」オーナーシェフ)は、そうしたQ&Aにすべて目を通し、本番の現場でルール違反を厳しく取り締まるつもりだ。中には規制をすり抜けようとするコンテスタントがいるのだという。
こうした「エスコフィエ(近代フラン料理の祖)」的な出題には、ボキューズ・ドール本部の思惑があると日本チームは推測している。近年は上位を北欧勢が占めていることもあり、ここで改めてフランス料理文化を守ることの大切さを再確認させようというわけだ。とはいえ、古典をそのまま再現しても勝てるわけもなく、伝統を尊重しつつ、いかに料理を進化させるのか、ということこそが、ボキューズ・ドールの要となる。
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