一方、付け合わせでは「自国の豆」を使用することが義務付けられているが、これも、料理は文化交流であり、自国の食文化も大切にすべしという意図が見てとれる。豆のように、古来、人間の食を支えてきた、お国柄が出やすい食材にそのような役割を担わせるというのは、なんとも心憎い出題に思える。
故ポール・ボキューズ氏は、「料理に国境はない。そのうえで文化交流し、進化をしていくことこそが、ボキューズ・ドールの真の目的」と語ったとのこと。まさにその理念が生きている。
大皿料理の「大皿」も腕の見せ所
読者の中には、大皿料理のイメージがわかないという人もいるだろう。これは、フランスの宮廷文化の名残で、宴会の際に、銀の大きな盆などに、塊で焼いた肉や野菜の付け合わせを華やかに盛り付け、目を楽しませたのちに切り分けて供するというものだ。実はこの大皿のデザインがまた各国の腕の見せ所で、競争も激化している。
今回、日本チームは気鋭のプロダクトデザイナー、鈴木啓太氏にデザインと製作を依頼した。同氏は、美術館収蔵の日用品から鉄道車両などの公共プロジェクト、また伝統工芸や素材開発など幅広い分野で活躍している。ルイ・ヴィトンやカルティエなど、一流のブランドから依頼を受けた作品も多く手掛けている。世界と戦うためには、一流の人材が必要との判断から、日本チームは鈴木氏に白羽の矢を立てた。
本来はテーマ食材が決まってから発注したいところだが、それでは間に合わない。すでに7月には、石井氏が描いたデッサンをもとに打ち合わせをしている。その後、第1案、第2案……とアイデアは出てきており、改めて、テーマ食材が決まった今、細部を詰めていくという段階に入っている。
ちなみに、この大皿は驚くほど金額がはる。製作費込みで、見積もりが500万円。そこをなんとか300万でできないかと、交渉中だという。これ1つをとってもボキューズ・ドールに参加することのハードルの高さがよくわかる。
日本チームが試作にあけくれているキッチンラボも相当手が込んでいる。本選で1秒の無駄もなく動けるように、本番とまったく同じ仕様のキッチンとなっており、ここで体に動きを叩きこんでいく。
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