現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
回転寿司で決められた「手洗いの作法」
ピッ、ピッ、ピッ──。メトロノームと同じテンポで電子音が流れる。ハンドソープを手に取り、リズムに合わせて「手の甲」「手指の隙間」「爪の間」などの箇所をメトロノームの音10回分ずつ順番に洗っていく。水ですすぐときはそれぞれ音5回分。ある全国チェーンの回転寿司で決められた手洗いの作法である。
首都圏にある店舗でアルバイトとして働く大学生のマサミチさん(仮名、20歳)は「洗い漏れのないよう、壁に貼られたマニュアルを見ながら行うよう指示されています。洗い終えるのにだいたい2分くらいかかります」と説明する。
出勤すると、まずこのメトロノームに合わせた手洗い。その後は制服に着替え、滑らないよう安全靴に履き替え、インカムを装着する。髪の毛などの混入を防ぐため、粘着ローラーを全身にかけることも忘れてはならない。続いて素材の在庫状況や発行中の優待券の情報が書かれた「連絡ノート」に目を通し、魚の仕込み方法や切り方、軍艦に載せる具材の分量などが指示されたレシピを確認する。
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