「汚い爆弾」で西側へ威嚇繰り返すプーチンの本音 敗戦回避、政権延命へスターリンの戦術を意識か

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このためウクライナ軍としては、ロシア軍部隊を全部降伏させたいという戦術を採用した。ウクライナ国防省が10月24日、ロシア将兵に投降を呼びかける声明を出したのもその一環だ。

一方で前出のフョードロフ氏によると、ロシア軍が左岸で防御線を構築する動きも見せており、いずれ精鋭部隊が左岸のほうに段階的に撤退する可能性もあると指摘している。この間は軍事訓練も満足に受けていない動員兵が防御に当たるが、同氏は「少しの間は防御できるだろう。動員兵に多くの戦死者が出るだろうが、クレムリンはまったく気にしないだろう」とみている。

ロシア軍は東部のドネツク、ルハンシク(ルガンスク)両州の一部で攻勢に出ている。ドネツクの要衝バフムトでは引き続きウクライナ軍との激戦が続いているが、ここでは恩赦を約束して集めた元受刑者部隊が攻撃の最前線に立っている。

ダム破壊と「汚い爆弾」

ここでもロシア軍は、ウクライナ軍が「非情だ」と漏らすほどの戦い方をしている。元受刑者部隊の後方では、プーチン氏に近い実業家であるエフゲニー・プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネル社の傭兵部隊と、チェチェン共和国のカディロフ首長が率いるチェチェン人部隊が二重の見張り陣地を築き、元受刑者部隊の脱走兵を射殺する行動に出ていると言われている。それでもウクライナ軍はバフムトの早期攻略に自信を見せている。

そのような中、ウクライナや米欧が警戒しているのは、追い込まれているロシアの新たな軍事行動の可能性として、1つはヘルソン州のドニプロ川にあるカホフカ水力発電所のダム破壊と、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の使用という2つのシナリオだ。

このうち不気味なのはダムの破壊だ。独ソ戦の最中、カホフカ発電所と同じくドニプロ川にあるドニプロ発電所のダムがスターリンの命令によって破壊された前例が実際にあるからだ。1941年8月、電力確保を狙ったドイツ軍がこの発電所に迫ってきたため、スターリンは発電所だけでなく、ダムの爆破を命じた。これによってドニプロ川沿岸に広大な洪水地域が発生し、ドイツ軍以上にロシア軍部隊の水死者が多かったと言われている。

さらにスターリンはこの爆破をドイツ軍のせいにする行動、つまり今の侵攻でロシアの常套手段として問題になっている「偽旗作戦」を実施したという説もある。

今回、もしカホフカ発電所のダムが破壊されると、ドニプロ川流域で1941年のときと同様な大きな洪水被害が出ることが懸念されている。ウクライナの軍事専門家の間では、その場合、ウクライナ軍が陣取る右岸よりロシア軍がいる左岸のほうが比較的低地なため、ロシア軍の被害がより大きくなるとして、ダム破壊の実際の可能性は低いという見方もある。

しかし、先述したドニプロ発電所の例を見ればわかるように、この見方が正しいかどうかは疑問も残る。大惨事を起こせば国際社会から一刻も早い停戦を求める声が高まり、結果的にウクライナ軍の攻勢を食い止めることができるとの、恐ろしい計算をプーチン氏がしていないとの保証はないからだ。

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