「汚い爆弾」で西側へ威嚇繰り返すプーチンの本音 敗戦回避、政権延命へスターリンの戦術を意識か

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通常型爆弾でありながら放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」シナリオでも、キーワードは「偽旗作戦」となる。ロシアのショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長が相次いで米欧に電話し、ウクライナが「汚い爆弾」を国内で使う可能性があると触れ回ったが、まったく相手にされなかった。

むしろ、これまでウクライナ・ブチャでの住民虐殺事件など、自軍の虐殺行為をウクライナ側の仕業と見せ掛ける工作まで行ってきたロシア軍の行動をみれば、自ら汚い爆弾を使ったうえでウクライナ側の犯行と主張する「偽旗作戦」の前ぶれと疑える行動だ。

ロシアはこれまでもザポリージャ(ザポロジエ)原発占拠事件や、核使用の可能性に言及することで国際社会に恐怖を与えてきた。核使用の可能性はまだ消えたわけではないが、アメリカはロシアが核兵器を使用すればウクライナ国内でのロシア軍せん滅など、異例の警告を出している。今回のダム爆破と汚い爆弾問題は、明らかにロシアによる新たな「危機演出」作戦と言っていい。

11月のG20サミットを見据えるプーチン

なぜロシアはここまで見え透いた危機演出行動を次から次へと繰り返すのか。その「標的」としてプーチン政権が睨んでいるのは、2022年11月に予定されている20カ国・地域首脳会議(G20サミット)だ。

ロシア側に近い立場を取る中国、インド、サウジアラビアなどの国々が参加するこの国際会議で「ウクライナ危機」を強調することで、停戦交渉による妥協をゼレンスキー政権に働き掛けるよう、米欧に圧力を加える狙いだろう。

こうしたG20に向けた危機演出の背景に、実際の戦場で行き詰まっていることがあるのは間違いない。2022年10月8日に発生したクリミア大橋の爆発事件以降、ロシア軍が始めたウクライナのインフラ攻撃は発電所破壊で広範な停電をもたらし、国民生活に打撃を与えている。しかし、キーウの軍事筋は、停電が国民の士気やウクライナ軍の作戦へ影響を及ぼすことはまったくないと断言している。

当初、一定の損害を与えていたイラン製ドローンの攻撃も次第に脅威度が大きく減少している。軍事筋によると、撃墜率は70%に達しているという。

カメラを搭載せず、GPSのみを頼りにクリミア半島やベラルーシから飛来してくるドローンは、曇天などで視界が悪くなるとそれだけで予定どおりの飛行が難しくなる。そのため、すでに秋から冬に向け天候が悪くなり始めている現地ではドローン攻撃がしにくくなっているという。

残る懸念材料は巡航ミサイルによる攻撃だが、ロシア軍の保有数が大幅に減少している。さらに米欧からのミサイル防衛システムの提供も始まっていて、ウクライナ側は防空能力を高めている。

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