成果主義が「仕事ができない人」を放置する大矛盾 仕事ができる人のやる気削ぎ、揉め事も引き起こす

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従って、蓋を開けると、S評価とA評価を足した割合がB評価の割合と近くなり、ほんのわずかなC評価、ほとんどいないD評価、という結果になることが珍しくない。

このような結果になると、ハイパフォーマー群が希少でなくなり価値が低くなる。そして、ハイパフォーマー群の従業員にも中間層と同じ程度の昇給配分をせざるを得ないことになる。

結果、ハイパフォーマーのやる気がなくなるのである。

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成果主義なのにローパフォーマーを放置する矛盾が引き起こす問題は他にもある。

普段はローパフォーマーに対してその現状を伝えていないのに、ある日突然、過去の分を含めて「ずっと君のパフォーマンスに問題があることは伝えていたつもりだ」と言い出す管理職がいる。

これまでそのようなコミュニケーションを受けていない部下は、当然驚く。

こうした「サプライズ」は、実はビジネスの現場で少なからず発生している。そしてこれが上司部下間の労務問題やハラスメントの問題を引き起こす原因となっているのである。

企業も従業員も誠実に向き合って

こうした現象を防ぐには、目標設定から評価、評価の伝達に至るまでのマネジメントプログラムを整備することである。

このプログラムを「パフォーマンスマネジメント」という。

このプログラムを通して、先に述べた「ハイパフォーマーを特定し、彼ら彼女らを魅惑し企業に留め、ローパフォーマーにはその状況を伝えて改善を図り、従業員全員を成長させながら企業業績を高める」成果主義を実現するのである。

「誠実」、「インテグリティ(Integrity)」を企業の行動指針として掲げる企業は多い。

従業員のパフォーマンスに真摯に向き合うことも、誠実な行動の表れといえるだろう。

一守 靖 事業創造大学院大学 事業創造研究科教授

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いちもり やすし / Yasushi Ichimori

慶應義塾大学経営学修士(MBA)、同博士(商学)。長年にわたりヒューレット・パッカード、ティファニー、NCR等の主に外資系企業における人事部門の責任者としてグローバル人事制度の導入、次世代リーダーの育成、企業変革等を推進すると同時に、複数の大学院における教育活動に従事。アカデミックの知見をビジネスの実践に活かす取り組みを行っている。

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