陸自特殊部隊「伝説の男」が対テロ戦争を語る 根本にあるのは格差、日本企業も当事者だ

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特戦群の生みの親である荒谷卓氏

だが、特戦群の生みの親である荒谷氏は、日本が米国と一緒に対テロ戦争を戦うことには慎重な見方を示す。「テロの根源には格差の問題があり、これに対する不満やストレスを和らげないかぎり抜本的な解決はできない」(荒谷氏)という理由からだ。

イスラム国は日本を名指しにして攻撃宣言をしており、日本も対応を迫られている。しかし、「ハイテク兵器にものをいわせる米国型の対テロ戦争は抜本的な解決になっていないし、テロの原因をより助長する。日本はそれとは一線を画し、テロの原因を解消するための社会復興支援活動に当たるという姿勢を明確にすればいい」と荒谷氏は語る。

特戦群は平和構築活動で世界トップクラス

日本は武力行使の前面に立つよりも、無政府状態で荒廃した地域の秩序を回復して経済を復興させるための手伝いにこそ汗を流すべきで、「こうした平和構築活動では、特戦群は世界トップクラスの力を持っているというのが荒谷氏の見方だ。

特殊部隊にとって戦闘能力の高さは「必要条件だが、十分条件ではない」(荒谷氏)。特殊部隊の本領は、現場の情勢に柔軟に対処しながら政治的な任務をこなすことにある。

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現地の住民と交流して味方につけるのも重要な役割なので、幅広い能力が求められる。だからこそ、特戦群の隊員には3年以上の徹底した訓練が課され、「サイバー戦から経済事情まで学ばせる。英語はできて当たり前」(荒谷氏)ということになる。海外でも特殊部隊の隊員には、一般兵士の100倍もの教育コストがかかるというのもうなずける。

それだけの人材が出番を待っているだけではもったいない。と思いきや、「特戦群は創設以来、一日の切れ目もないほど実際の任務に当たってきている」(荒谷氏)のだそうだ。設立直後の2004年にイラク・サマワへの自衛隊派遣に同行したような例のほか、国際機関にスタッフとして派遣されるなど、海外でさまざまな任務に就いているという。「実戦経験」は豊富なのだ。

特戦群の隊員は、イラクで要人警護、部隊警備に当たりつつ、人道復興支援活動のために必要なあらゆる仕事をこなした。そのためにアラビア語の学習、コーランや現地の礼儀の勉強も積んでから赴任したという。地元に溶け込むための努力を重ねる特戦群の隊員はイラク人からの信頼を勝ち取った。イラクに派遣された自衛隊が無事に帰ってこられた背景には、こうした配慮の積み重ねがあった。

世界各国の特殊部隊との交流を通じて対テロ戦の実態を熟知する荒谷氏は「テロの根本にある格差は市場経済のグローバル化がもたらしたもの。日本企業もその当事者だ」と語る。テロや戦争と自らの経済活動とのかかわりについて、ビジネスパーソンも無自覚ではいられない時代になった。日本が国際社会でどのような立ち位置を選ぶのかを、真剣に考えるべきときが来ている。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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