フランスでは科学者として高い評価を受け、「親愛なるパパ」と慕う女性が何人もいて、セレブリティとしての扱いも受けた。それでも、彼は対人関係に対する強い自信を持ちながら、知識に対する自信をひけらかすようなことはしなかった。
相手を否定する言葉、思いやる言葉
なぜここで論破とは無縁の人物に見えるフランクリンを持ち出したのかと言うと、若いころの彼は、人の間違いを指摘したり、相手を「論破」したりすることを楽しみにしていたからだ。
論破したほうは理路整然と話して、なおかつ自分の正当性が認められたので、勝ち誇ったような気分になれる。反論もできず地団駄を踏んでいる相手を見ると、優越感にも浸れる。これほど気分のいいものは、めったにない。
とはいえ、悔しい思いをした相手にすれば、論破された反感という相手への負の感情が残る。それはカンタンに消えるものではなく、やがて憎しみへと変わることもある。
幸いにも、若いころのフランクリンは論破することの無意味さを悟ることができた。「間違いない」「絶対にそうだ」といった断定的な言葉を使うと、意見を否定されやすいことに気づいたのだ。それからのフランクリンは断定的な表現を避け、
「私はこう思うんですが……」
「もし誤解でなければ……」
「今の私にはこんなふうに見えるんですが……」
といった言葉を前置きしながら発言するように心がけていた。
最初のうちは、この習慣を保つのは大変だったが、そのうち、優しい言葉で意見を表現すれば相手に受け入れてもらいやすくなってからは、苦にならなくなった。
やがて、フランクリンはアメリカ史上屈指の影響力を持つ人物となった。独立宣言を共同起草し、フランスを説得してイギリスに対するアメリカ独立戦争への支援を取りつけた。この戦争を終結させるための条約交渉も成功させ、アメリカ憲法の起草と批准にも貢献した。
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