「ベニクラゲ」が死なないのは若返り続けるから 不老不死のクラゲの研究は人間に適用できるか
半透明の小さな傘の大群が地中海の海中を漂っている。豆粒ほどの大きさしかない、このミニチュアサイズのクラゲの名は「ベニクラゲ」。光り輝く海に漂うほかの種類のクラゲの多くと同じく、揺れ動く青白い触手でプランクトンをとらえ、口に運んでいる。
だがベニクラゲには、普通の海洋生物にはない秘密がある。「メデューサ」と呼ばれる成熟個体は、体が傷つくと時間を巻き戻し、若返ることができるのだ。まず触手が収縮して海を漂う塊となり、小枝状の「ポリプ」と呼ばれる幼体に変身して岩や海藻に付着。
そのポリプから「クラゲの芽」が成長して分離し、再び若いメデューサとなる。ベニクラゲは食べられたり、損傷したりして死ぬことはあっても、加齢で死ぬことはない。実質的に不老不死なのだ。
若返りの仕組みの片鱗を解き明かした
科学者たちは『アメリカ科学アカデミー紀要』に8月29日付で掲載された論文で、驚くべき若返りのプロセスを制御する遺伝子について、そのゲノムを詳しく調べた結果を発表している。研究チームは、生まれ変わりのサイクルの各局面で活性化する遺伝子を調べることで、若返りの繊細な仕組みの片鱗を解き明かした。
ベニクラゲのゲノム研究では、十分な数の個体を集めるのにも困難が伴う。実験室での長期にわたる飼育に成功しているのは、京都大学の研究者、久保田信氏だけだ(久保田氏はこの小さな研究対象にインスパイアされた歌を多数つくり、披露してもいる)。