陽性、あるいは判定保留になった妊婦やパートナーが、その意味するところを正確に知り、その後の行動について専門家と話したいと渇望するのは当然のこと。こうした数字を見ると、妊婦はこれまでさまざまな事情から無認定施設へ流れたけれど、本当は、専門家に相談できる体制のもと、大事なわが子の出生前検査を受けたいのではないかと思います。
同サイトでのアンケートでは、NIPTの認証施設が増えたことについても聞いてみました。回答は「よいことだ」「どちらかというとよいことだ」が合わせて89%と、おおむね肯定的に受け止められていました。
理由は妊婦の負担が少なくなることのほか、「受けたい人たちには、受けられる体制が必要」とする声が目立ちました。回答者の中には自分は出生前検査を受けないという考えの人がたくさんいましたが、さまざまな理由から受けたい人がいることを非難する声はとても少なく、個々の選択を尊重するという考えが肯定感につながったようです。
認証施設、日野市立病院の例
先日、新しい認証施設としてNIPTを始めた病院のひとつ、日野市立病院(東京都)にうかがいました。同院の柳下玲子産婦人科部長は、無認定施設のNIPTで「胎児に異常がある可能性が高い」という通知をもらい、孤独なネット漂流の末、柳下医師のもとにたどり着く妊婦たちを見るに見かねて、申請を決心したそうです。
柳下医師は出生前検査のエキスパートである臨床遺伝専門医なので、同院には胎児疾患の不安を相談できる専門外来「超音波・遺伝相談外来」が以前からあり、胎児超音波検査(長時間の詳しい超音波検査)、羊水検査などNIPT以外の出生前検査とカウンセリングを提供してきました。
これまでNIPTを実施してこなかったのは、同院には常勤産科医が3人しかいないため、超音波・遺伝相談外来の人数を抑える必要があったと、柳下医師は言います。
出生前検査の相談は時間がかかり、初回は1時間くらいかけるのが普通です。日常診療との両立もむずかしく、今までも、分娩や緊急搬送が重なると、遺伝カウンセリングを予約した妊婦に「相談時刻をずらしてもらえませんか」と頼んできました。
でも、柳下医師の専門外来で検査して陽性となった妊婦は、検査前に柳下医師から陽性になったときの話を聞いているので覚悟もでき、また、相談相手がいるという安心感もあるなかで結果を受けることができます。1人でさんざん悩んでいた妊婦の姿を見ているうちに、柳下医師は「こんなことが続くなら、ここでNIPTを始めてみよう」と考えるようになりました。
柳下医師のもとへ相談に訪れる検査希望者の中には、「もし、この子に病気があるなら、その病気に対応してくれる病院で産みたい」という人も少なくないそうです。実際、柳下医師は、遺伝学的検査のみならず胎児超音波検査も駆使して心臓病などを発見し、その子が最適な病院で医療を受けられるように配慮してきました。
心臓病は超音波で最もよく見つかる疾患で染色体は正常なケースが多いですが、染色体疾患がある子の合併症としてもよく見られ、出生直後の治療を要することがあります。
認証施設を増やす、これはこのような施設を増やすということです。出生前検査を受ける人を増やし、障害児を産む人を減らそうなどという考えではなく、1人で悩む妊婦をなくそうというのがその趣旨なのです。
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