「出生前検査」への意識、認証施設拡大で変わるか 妊婦が1人で悩むことのないよう全面的に支援

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NIPTは染色体疾患の一部について、「病気がある確率が高いかどうか」を調べる検査です。本当に病気があるかどうかは羊水を採って、胎児細胞を観察しなければ確定できません。

しかし、無認定施設で陽性になった人の中には、専門外来に一度も現れることなく人工妊娠中絶をしている人も少なくないと、専門医の間では推察されています。

SNSではカウンセリングをする専門医が心配し、「どんな検査施設でNIPTを受けた人でも、困ったら1人で悩まず相談に来てください」と書いていたりするのを見かけます。それ自体が、無認定施設に行った人は、専門家のところへ行きにくくなってしまうという現実を感じさせます。

年齢などで違うNIPTの精度

NIPTの精度は母親年齢が若いほど下がり、染色体疾患の種類によってはかなり低くなることは、あまり知られていません。京都大学医学部附属病院遺伝子診療部の山田崇弘医師によると、40歳の女性が21トリソミー(ダウン症候群)陽性とされた場合の陽性的中率(本当に21トリソミーがある確率)は98.2%ですが、35歳では93.58%、25歳では79.32%です。

また、13番目の染色体が3本ある13トリソミーでは、40歳で73.76%、25歳では16.7%まで落ちます。

このことは、NIPTの陽性判定だけで人工妊娠中絶が行われた場合、病気がないのに中絶を受ける子どもが一定数出ることを示しています。最近の無認定施設では21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー以外にもさまざまな染色体疾患の検査を実施していますが、専門医によると、それらの陽性的中率はさらに低くなります。

NIPTがこのような状況になったのは、たくさんの妊婦をおきざりにした制度そのものにも問題があったと思います。運営委員会は旧制度の顛末から学んで体制を整備していくことが求められます。

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何より大切なのは、新しい認証施設の中で、本当に妊婦を支える相談が行われていくのかをこれから見ていくことでしょう。

先の母親へのアンケートは新体制をおおむね肯定してくれましたが、自由筆記には「新認証施設も、ちゃんとした説明を本当にしてくれるのか?してくれるのなら賛成」という声もありました。このことを忘れず、必要な改善を重ねていくことが重要だと思います。

河合 蘭 出産ジャーナリスト

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かわい らん / Ran Kawai

出産ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。カメラマンとして活動後、1986年より出産に関する執筆活動を開始。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院等の非常勤講師も務める。著書に『未妊―「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。

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