今のインフレを見誤る人が知らない「4つの要因」 「原油価格の上昇」だけでは到底、説明できない
その背景となっているのが、②の全世界的な需要の拡大です。今回のインフレについて、多くのメディアは、コロナ危機後の景気回復期待とロシアによるウクライナ侵攻によって価格が上がったと説明しています。
確かに景気回復期待から企業の発注が増え、それが価格上昇の要因となったのは事実ですし、ウクライナ侵攻によって食料不足が懸念されているのも事実ですが、この理屈だけでは、状況を100%説明しているとは言えません。
実は、今回の物価上昇の最大の要因は、全世界的な需要の拡大です。近年、中国を筆頭に東南アジアなど新興国の経済成長が著しく、全世界的な需要は拡大の一途です。社会が豊かになれば、当然の結果としてエネルギー消費は増えます。
また、社会が豊かになると、肉食が増えることは、あらゆる地域で観察される現象であり、実際、中国や東南アジアでは肉の消費量が急増しています。肉の消費が増えると、穀類の消費が増加し、食料全体の需要も大幅に増えます。エネルギーや食料は、工業製品とは異なり、需要が増えたからといって、簡単に生産量を増やすことができません。
全世界の需要拡大は、10年くらい前から顕著となっており、供給が追いつかないリスクはすでに市場関係者の間では認識されていました。全体的にモノの供給が足りない状態だったところに、コロナ危機からの景気回復期待が重なり、一連の価格上昇を引き起こしたのです。
米中対立が与える深刻な影響
この動きに拍車をかけているのが、③の米中対立です。トランプ政権以降、アメリカは中国を敵視する戦略に転換し、米中は事実上の貿易戦争に突入しました。加えて両国は、相手国で生産された工業製品について安全保障上の脅威と見なすようになっており、特定品目については第三国を経由した貿易にも制限を加える意向を示しています。そうなると、米中市場は完全に分断されます。
中国からの輸入に高関税が課された場合、あるいは中国の工業製品が安全保障上の理由から輸入できなくなった場合、アメリカの企業は、(A)高い価格でそのまま中国から仕入れる、(B)中国以外の国からの輸入に切り替える、(C)自国産の製品に切り替える、という選択を迫られます。
中国以外の国で、同レベルの低価格と大量生産を実現できる国は今のところ存在していませんから、(B)を選択すれば確実に価格が上昇します。(C)はどうでしょう。アメリカ内のコストはきわめて高く、価格は上がります。結局、どれを選択しても、価格に上昇圧力がかかるわけです。
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