今のインフレを見誤る人が知らない「4つの要因」 「原油価格の上昇」だけでは到底、説明できない

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ところが、コロナ危機の発生によって、市場から余ったマネーを回収し、元の状態に戻す金融正常化の作業が遅れ、その間に米中対立や新興国の需要拡大などによって、予想以上にインフレが進行する事態となってしまいました。わが国に至っては、金融を正常化するどころか、依然として量的緩和策を継続中であり、市場には相変わらず大量のマネーが供給されています。

需要の増大に供給が追いつかないなか、全世界的にマネーの回収が進んでいないという状況ですから、世界経済はインフレのマグマがたまりにたまった状態となっています。各国の専門家がインフレに対して警鐘を鳴らしているのは、こうした理由からです。

コストプッシュ・インフレでは説明できない

今回のインフレに対して、一部の専門家は原油価格の上昇が根本的な原因であり、純粋なコストプッシュ・インフレであると説明しています。コストプッシュ・インフレとは、原材料費などコストの上昇が原因で発生するインフレのことです。

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しかしながら、ここまでの説明からもおわかりいただけるように、今回のインフレを単なるコスト要因であると捉えると本質を見誤ります。

そもそも経済学の基本的な理屈として、特定の1次産品が値上がりしただけで、経済圏全体の物価が長期にわたって継続的に上昇することはありえません。継続的な物価上昇が続く時にはほぼ100%、マネーの膨張など貨幣的要因が絡み合っています。

今回のインフレは需要拡大と供給制限、そして貨幣の膨張が複雑に絡み合ったものであり、対応も簡単ではないことを理解しておく必要があります。現時点において、世界経済は物価上昇が進んでいるものの、経済成長も続いており、賃金は物価に何とか追いついている状況です。しかし、もし経済成長が鈍化し、物価上昇に賃金が追いつかなくなれば、不景気下のインフレ、スタグフレーションになります。

各国政府はスタグフレーションに陥らないよう、ギリギリで対処しているのが現実です。日本の場合は、これに特殊事情が加わりますから、事態はより深刻です。この日本ならではの事情については次回、解説したいと思います。

加谷 珪一 経済評論家

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かや けいいち / Keiichi Kaya

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在、「ニューズウィーク(日本版本誌)」「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。著書に『新富裕層の研究』(祥伝社新書)、『戦争の値段』(祥伝社黄金文庫)、『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)など多数。オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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