ヤマザキマリが語る「心の免疫力の身に付け方」 深く傷つくこと、失敗することも時には必要だ
「彼女を欲しいと思わないのは、今じゃ、自分の周りでも当たり前のことだよ」
先日息子のデルスと話していたら、彼の口からそんな言葉が出てきました。どうやら昨今の若者には彼のように恋愛や結婚にまったく興味や関心をもたない人たちが増えているらしいことを知りました。確かに、数カ月前に審査員を担当した某SF小説のコンクールでも、送られてきた作品のなかにはこうした傾向が垣間見えるものがいくつかあって、審査会でも物議を醸しました。
しかし、恋愛や結婚という面倒な関わりをもつよりは、すっきりさっぱり付き合える友人というスタンスのほうが気楽だと捉える若者たちが増えているというこの動向を、メンタル省エネの今の時代であればさもありなん、と私は受け止めています。
バブル期と今の若者の違い
たしかに、不確実性に満ちた恋愛というのは精神面でのコストがとてもかかる代物で、喜びだけではなく、怒ったり悲しんだり、絶望やそれに奪われるエネルギーや時間に対応できるキャパがなければ、なかなかやりくりできるものではありません。
それまで他人だった人間と深く関わるのはよくよく考えれば簡単なことではありません。予定調和など望めなくなることを、恋愛に陥る人は見落としがちになってしまいます。
ただ、これが例えば世の中にお金が潤沢に回っていたバブル期の若者なら、自ら喜んで失敗に向かっていく傾向がありました。海外への旅にしても、バックパッカーという向こう見ずな風来坊的スタイルを選ぶことで、「俺って思ってたより使えねえ」といった局面に向き合う経験をあえて積極的にもちたがる人があの当時は少なくありませんでした。
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