ヤマザキマリが語る「心の免疫力の身に付け方」 深く傷つくこと、失敗することも時には必要だ

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もっとも、感情を削ぎ落としたロボットにでもなるほうが、社会は円滑に稼働するという流れになるとは思います。実際、人口をたくさん抱える大国には、国民の感受性や想像力を掌握することで国威増長を図ろうとしている傾向がありますからね。

しかし、人間というのは私たちが思っている以上に強固な生き物です。傷ついたとしても、本来なら本能のレベルで「こんなものだろう」と諦めて、何度でも立ち上がる"起き上がり小法師"的性質が備わっているはずなのです。

にもかかわらず、失敗や屈辱や失望が怖いからと避けることに注力していたら、生命体としての溌剌としたエネルギーが稼働されることはなく、ますます脆弱化していくだけでしょう。生物のエネルギーというのは発散してこそ益々効率よく巡るはずなのです。

例えば、一流のアスリートやミュージシャンといった人たちがパフォーマンスの場でそのエネルギーを爆発させ、精神力と生命力を輝かすことができるのは、傷つくことや他者からの批判、バッシングなども含め、自分では制御できないことと対峙することを恐れず、心身の新陳代謝を果敢に行ってきたからではないでしょうか。

故に、運動や歌舞音曲といったエンターテインメントとは、古代から人々に生きる力とモチベーションを提供する大事なリソースであり続けてきたわけです。

間違いを恐れないことが大切

恋愛や誰かを好きになる気持ちも制御は難しい。失恋しては傷ついて泣き、玉砕する場合もある。そうした経験も結果的には人間力を輝かせる要素になると思えばいいのです。私は恋愛感情がどれだけ人間を狂わせるものかもわかっていますし、自由を拘束する結婚という社会的契約を推奨したいとも思いません。息子のように恋愛に特別な関心をもたない若者が増えているというのも、現代社会におけるごく自然な現象だと捉えています。

ただ、そんな兆候のなかでも恋愛心が芽生えてしまったという人がいればそれはそれで、人間ならではの情緒や感動という経験値が増えることにもなりますから、大いに向き合ってみるべきでしょう。

そもそも人間は厄介な生き物なのです。厄介な生き物ではないふりを続けるのは難しく、ふと気がつけば凶暴で残虐で、不条理な差別もすれば、みっともない部分が社会のなかで様々な形となって露呈している。ただ私たちは自分たちの中に内在するそうした性質を、良識や倫理をもって制御するように象られています。

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