ヤマザキマリが語る「心の免疫力の身に付け方」 深く傷つくこと、失敗することも時には必要だ
自分に対する失望と向き合っても、立ち直れていたのはおそらくお金の威力です。お金のもたらす精神的ゆとりは、人間の視野を寛大化させ、苦悩や困難に対してのグレードや価値観が今よりもずっと緩かったようにも思います。
お金によって許される生活の安寧は、精神面でのダメージも緩和させていたはずです。女性との付き合いにおいても同じことが言えるでしょう。例えば恋人に自分のダメさを指摘されたところで、お金を使って別のことで誤魔化せることのできた時代だったのかもしれません。
比して今の若者は、経済的なゆとりに乏しい。自分から言葉の通じない国に行って、失敗を経験しようなどという気もなく、恋愛をしたとしても潰しが利きません。付き合っている女性と喧嘩してなじられでもしたら受ける痛手も大きくなる。そして、「俺っていったい何なんだろう、なんで生まれてきたんだろう」などという極限的方向に自分を追い詰めて、悶々と悩み始める。
自分が生きてきた証や喜びを、好きになった女性に丸々依存してしまいがちになるのも、経済的な安寧が許されない今の時代ではバブル時よりも顕著なのかもしれません。経済的困窮がもたらす心許なさは、自分自身に対するジャッジを厳しくするきっかけにもなっているように感じます。
そしてこうした兆候は、SNS上で社会への批判や疑問を呈する人に対して、何がしかの理由をつけては糾弾する昨今の現象とも密接に結びついているようにも思います。
思いを寄せている人に自分を否定されることで生きる意味が揺らぐ。目障りな意見に激しい拒絶反応を示し、その根源を潰す。どちらの場合も、根底に予定調和の不確実性と、それに対応できないであろう自分に対する不安と怯えの顕在化だと捉えることもできるでしょう。
負の感情は生きるうえで避けられない
失敗や否定されたことなどによって感じる、屈辱や苦しみ、悲しみといった感情は、人間が本来備え持っているものです。そもそも生きていくうえで、精神面に何某かの傷がつくことは必然なのであり、そうした負の感情をまったく使わずに生きていくのは不可能なことなのです。傷を負わないように生きていると、いざ何か問題が起きたときには、免疫も抵抗力も無いために簡単に打ちのめされてしまうようになる。
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