ソ連の崩壊と社会主義の破壊は想定外だった ペレストロイカを実体験したロシア人教授の回想

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――ペレストロイカの時代を直接体験されたロシア人として、ゴルバチョフ個人に対して今、どのような評価をされますか。

私は当初からゴルバチョフ書記長を高く評価しました。国民が嫌がったり無視したりするゴルバチョフは、知識人の一部では人気が高い。時間が経てば経つほどに、一部の知識人にはゴルバチョフ人気が高まっているという感じさえ受けます。しかし、彼を高く評価する人は、これもまた大都市のエリート知識人層の中では多数かもしれませんが、ロシア全体ではごく少数なのです。

ゴルバチョフの情熱「よりよい社会を」

1990年代になって、経済政策のため、あるいはゴルバチョフの指導スタイルがもたらした状況に私は失望していました。それだけでなく、ゴルバチョフという人は、それほど有能な政治家ではありませんでした。彼には民衆を助けたい、国をよい方向に導きたいという意思はありました。しかし彼は、素朴な人であり、世界をきちんと理解できない人でもありました。それゆえに、ゴルバチョフは望ましい変化をもたらせない人だと私は考えました。

アンドレイ・ランコフ/1963年、旧ソ連・レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ。レニングラード国立大学を卒業後、同大学の博士課程を修了。金日成総合大学に留学した経験もある。母校やオーストラリア国立大学などで教鞭をとった後、現職。著書に、『平壌の我慢強い庶民たち』『スターリンから金日成へ』『民衆の北朝鮮』『北朝鮮の核心』など邦訳も多数(写真:ランコフ氏提供)

ゴルバチョフは社会主義を破壊する考えはなかったし、ソ連を解体する考えもありませんでした。この2つの史実はゴルバチョフの政策によって発生してしまいましたが、ゴルバチョフが計画したものではなかったわけです。

ゴルバチョフが計画を立案できる人ではなかったことは確実です。それにもかかわらず、ゴルバチョフが持っていたより自由な社会にしよう、より明るい社会にしよう、より人間らしい社会にしようという希望と情熱は、彼が犯したミスや政策的な誤りよりは、はるかに重要なものだったと言えるでしょう。

だからこそ、この10~15年間、ゴルバチョフに対する私の評価は大きくよくなりました。彼が犯したミスや過ちを今でも覚えていますが、それよりもそうした彼が偉大だった部分を以前よりよく思い返しています。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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