ソ連の崩壊と社会主義の破壊は想定外だった ペレストロイカを実体験したロシア人教授の回想

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今振り返ってみると、彼らが態度を変えた理由がすぐにわかります。逆説的なことですが、ソ連体制が崩壊した時、最も大きな利益を得た人たちは共産党幹部や国営企業経営者、KGB(国家保安委員会、現在のロシア連邦保安庁、FSB)職員と一般警察でした。彼らはソ連時代にも特権階層でしたが、ソ連時代には彼らでさえもある程度管理・監視もされ、行動にも制限がありました。

ところがソ連崩壊以降、彼らは自分たちの特権をうまく維持しただけでなく、その特権を拡大させました。とくに彼らは、もともと経営していた国家所有の財産を自分のものにしてしまいました。こんにちのロシアを動かしている人たちの3分の2程度が、旧共産党幹部やソ連時代の特権階層出身者です。

私のような知識人の多数も勝ち組にはなるのですが、国の財産を盗んだ幹部とKGBの連中は、われわれよりはるかに大きな勝利を収めた、勝ち組中の勝ち組になります。

ゴルバチョフは民族の裏切り者か

――ソ連崩壊から30年。ゴルバチョフが亡くなりました。この30年間、ペレストロイカをはじめゴルバチョフに対する評価にはどのような変化がありましたか。

1989年に入って、ゴルバチョフに対するソ連国民の態度は急速に悪化し始めました。これは外国ではそれほど知られていない事実だと思います。そして1990年代半ばから、ロシア国民の絶対多数はゴルバチョフをとても嫌いました。

彼らにとってゴルバチョフとは経済危機を招いた人であり、ソ連を破壊した人でした。彼がCIA(アメリカ中央情報局)に取り込まれたスパイだという話を信じてしまう人もいました。今でも少なくありません。2000年代に入り、ロシアは厳しい体制移行の過渡期を無事に終え、経済危機を克服しました。それでも、ゴルバチョフに対する国民の敵対感はさらに強まりました。

かつてのソ連国民にとってゴルバチョフとは、「超強大国だったソビエト社会主義共和国連邦を破壊した民族の裏切り者」となったのです。しかも、ゴルバチョフの政策のおかげで莫大な国家財産を盗んで大金持ちになった元共産党幹部や元KGB職員たちも彼を強く嫌いました。社会主義の復活をまったく望まず、今後も豪華な生活を送りたい彼らでしたが、一方で超強大国ソ連に郷愁を感じてもいました。

これまでの30年間で学んだ教訓はたくさんありますが、最も重要な教訓は、ゴルバチョフを好きであろうともなかろうとも、ロシアの国民のエリートたちでさえも、実は政治的な自由や民主主義にはあまり関心がないのだ、ということです。これは本当につらい事実です。

ロシアの大多数の人たちは個人の自由、すなわち読みたい本を読んで、見たい映画を見て、お金があれば海外旅行にも行けるといった自由を高く評価します。ところが、言論の自由や政治参加の自由を高く評価しません。

率直に言えば、私は当初からこうなるだろうという可能性を予想していましたが、それでも実際の結果は、私のそんな予想よりも深刻でした。政治参加の自由や言論の自由に対する国民やエリートの無関心さはとても深刻です。私はこれに、強いショックを受けました。

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