「ミスが多い」53歳で退職した発達障害男性の末路 てっきり定年まで働き続けるものと思っていた

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話は少しずれるが、私の取材経験上、発達障害の中でも言語理解が高く、処理速度の遅い人には一定の共通点がある。メールでのやりとりはスムーズなのだが、対面やオンラインなどのコミュニケーションになるとほんの少しだけやり取りに時間がかかるのだ。

マナブさんもメールの文章は文法も適切、語彙も豊富で、いうならば完璧。一方で取材の質問に対する答えでは言いよどんだり、考えこんだりすることがあった。ただこちらが急かすことなく、ほんの数秒待ちさえすれば、例外なく適切な答えが返ってきた。

それだけにあらためて思うのは、なぜ社会はこうした人たちを「効率が悪い」「浮いている」といったささいな理由で排除するのか、ということだ。会社員時代のマナブさんについていうなら、罪を犯したわけでもなければ、会社に甚大な損害を与えたわけでもない。

発達障害の特性を理由にポイ捨てする企業

本連載には発達障害の特性のせいで会社をクビになって貧困状態に陥った、あるいは定職に就けず、貧困から抜け出せないので調べてみたら発達障害だったといった人からの取材依頼がとても多い。こうした人たちが相次いで病院に行けば、それは1年先の予約も埋まるだろう。中には初診後すぐに発達障害と診断する不適切な病院もあると聞く。

発達障害の特性を理由にポイ捨てする企業に、追い立てられるようにして診断を下す医療機関――。こうした負の連鎖はもはや異常事態なのではないか。

利用価値の高い人間だけを残したいという企業側の考えを理解できないわけではない。ただ乾いたぞうきんを絞るがごとく人件費削減や効率化を図り、少数精鋭の正社員に負荷を集中させ、非正規雇用労働者を増やすことで、この間日本の経済は発展しただろうか。

一方の発達障害当事者にしてみれば、転職のための教育研修といった機会も不十分な中で、いったんクビになれば不安定で低賃金の非正規雇用に落ちていくしかない。その過程で自己肯定感もズタズタに損なわれる。彼らの一部は障害年金や生活保護を利用することにもなる。

負の連鎖はそろそろ断ち切るべきだろう。それは「健全な分厚い中間層」を復活させる唯一の方法なのではないか。

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もしマナブさんが会社で働き続けていれば、定年は65歳だった。翻って今は将来が見えない中、蓄えを切り崩す生活。「これから、いつまで働き続けなければならないのか。それが不安です」。

2年前に辞めた会社について、マナブさんは「感謝もないけど、恨みもありません」と、最後まであからさまな批判を避けた。一方で「できるならどうすればミスが減らせるのか、一緒に考えてほしかった」と語る。30年間貢献した社員のささやかな望みがかなえられることはなかった。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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