ここからがおもしろいところで、定期的に運動を続けると、運動以外のことが原因のストレスでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなる。運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、体が運動で鍛えられるにしたがって徐々に抑えられるのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのである。体を活発に動かしたことでストレスに対する抵抗力が高まる。
運動は前頭葉を強くもする。体を活発に動かすと脳の血流が増える。前頭葉にたちまち大量に血液が流れ、機能が促進される。さらに、運動を長期にわたって続けると、前頭葉に新しい血管がつくられ、血液や酸素の供給量が増加、それによって老廃物がしっかり取り除かれる。
加えて、定期的に運動すれば、前頭葉と扁桃体の連携も強化される。そうなると、前頭葉はさらに効率よく扁桃体を制御できるようになる。教師が離れた場所から生徒を監督するのではなく、教室にいて直接指導するようなものだ。
定期的な運動を続ければ、前頭葉は物理的に成長までする。1時間程度の散歩を習慣にしている成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していたのだ。歩くと前頭葉が大きくなる。信じられないような事実である。
運動とストレスは「正反対」に作用する
運動とストレスに関するさまざまな研究論文に目を通していると、ある事実が浮かび上がってくる。ストレスと運動は、ほぼ正反対の作用を脳に与えているのだ。
・ストレスは脳の変化する特性(可塑性)を損なわせるが、運動はそれを高める。
・ストレスが高まると短期記憶(数分から数時間の記憶)が長期記憶に変わる仕組みにブレーキがかかる。運動はその逆に作用を促す。
運動は、ストレスや不安を消し去る本物の解毒剤だ。週に2,3回は心拍数が増えるようなランニングなどの有酸素運動をお勧めしたい。たとえ動悸が激しくなっても、脳はそれがストレスから来るものではなく、プラスの変化をもたらすものだと学習する。ただ散歩に出かけるだけでもいい。活発に体を動かしたときほどではないにしても、ストレスを抑える効果は望める。
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