日本人がサンマを100円で買えない本当の理由 環境変化や中国漁船は不漁の主原因になるのか

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各国の漁船で漁獲量が減っています。一方で魚価は上昇。こうなると漁業者は、少しでも多く獲ろうと漁獲圧を高めていきます。行き着く先は乱獲と資源崩壊です。

そこで関係各国が対策に乗り出したのが、2015年に設立されたNPFC(北太平洋漁業委員会)です。ここで科学的根拠に基づく資源管理が行われ、国別漁獲枠が設定されるべきだったのですが……。

サンマの国際交渉(NPFC)はどうなっているのか?

2021年にNPFCで関係国と決められた内容は、サンマの資源を守るのには程遠いものでした。メディアでは「枠を4割削減し15.5万トン(EEZと公海の合計)とした」などと、いかにも資源管理がされているように報道されました。しかし2021年の漁獲実績は、15.5万トンの漁獲枠に対しわずか2万トンに過ぎず、数量規制の効果などありませんでした。

サンマ漁船(写真:筆者提供)

各国の漁獲枠の合計は、2021年と2022年と2シーズン共に33.4万トン。配分は公海が19.8万トンでEEZ(日本とロシアが少し)が13.6万トン。しかし2021年の漁獲量実績は全体で9.5万トンと漁獲枠の3分の1で、漁獲枠にまったく達しない枠となっています。つまり中身は、資源管理になっておらず、これまで通りの「獲り放題」なのです。日本の漁船はEEZと公海の両漁場で漁獲できるのですが、肝心のサンマがいません。

これでは我が国も含め、各国は今までどおりできるだけ獲るのみ。欧米など、漁獲できる数量より大幅に抑えられた枠。すなわち漁獲枠と漁獲量が同じなのが当たり前の漁獲枠の設定とは、似て非なる「まったく効果がない別物」なのです。

たとえ今年の漁獲量が、過去最低だった昨年より増えたとしても、それはサンマ資源が崩壊していく過程での、最後の抵抗かもしれません。

片野 歩 Fisk Japan

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かたの あゆむ / Ayumu Katano

早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)他。

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