介護離職で心が不安定に…50代女性が復職した訳 仕事を親の介護のために辞めてはいけない理由

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「仕事が生きがい」と話す一方で、母親のことをとても大切にされているAさんは、母親が楽しく通えそうなデイサービスを入念に検討し、利用を決めました。勤務時間中は介護職員が見守ってくれていることで、「安心して仕事に取り組める」と言います。

そんなAさんですが、肺炎で一時期入院していた母親が退院してから、仕事を休んで介護に専念していた時期がありました。その頃のAさんは、常に母親のことで頭がいっぱい。母親のちょっとした変化がとても心配で、1日に何度も相談の連絡が入ることもありました。

娘と母、不安の連鎖が始まり…

「お母さんの介護がすべて」という毎日を送っているなかで、知らず知らずのうちに心の余裕がなくなっていたのでしょう。目の前で娘が不安になっている様子を見て、母親にも不安が伝染して落ち着かず、さらに娘が心配になるという負の連鎖が起こるようになり、「仕事から離れて介護に専念する」というAさんの選択に限界が見え始めていました。

幼稚園教諭という仕事が好きで、介護に集中する日々のなかでも「仕事に戻りたい」という気持ちを持ち続けていたAさんは、介護に専念して2年を迎えた頃に、仕事に復帰。それ以来、介護保険サービスを活用しながら仕事と介護を両立し、現在に至ります。

仕事に復帰してからのAさんは、不安で感情的になりやすかった面も随分と落ち着き、イキイキとした表情に変わりました。介護以外に必要とされる場所があることが、ポジティブな変化を生んだようです。

デイサービスに通い始めた母親にも前向きな変化がありました。

施設では同年代の利用者さんと話すようになり、家でもAさんとの会話が増えたと言います。こうした2人の変化を間近で見るなかで、外の社会とのつながりや自分の時間を持つことは、患者さんにとっても家族にとっても本当に大切なものだと改めて実感しました。

在宅ケアが必要になったときに大切なのは、必ずしも家族が直接介護に関わることだけではありません。「自宅で過ごしたい」という思いを支える方法には、さまざまな手段があります。同じ病気であっても、患者さんの性格や病気の受け止め方、家族の環境などで選択はそれぞれ変わってきます。何が正しいということはなく、大事なのは、それぞれの状況や思いに合う選択です。

私は時々、企業に出向いて介護について講演をさせていただく機会がありますが、その際には必ず「支えるご家族が、介護のために仕事を辞めることは、できるだけ避けてください」とお伝えしています。経済的な問題も理由の1つですが、支える側である家族の人生も大切にしていただきたいと思うからです。

在宅ケアは「患者さんご本人がどう過ごしたいか」ということはもちろんですが、「家族がどう支えていきたいか」という点も大切です。つらいことではありますが、患者さんが最期を迎えられたあとも、残された家族の人生は続きます。

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