リスクや危機に対処できる「優れた経営者」の手法 「スタンフォード大学発」未来洞察のアプローチ

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西側諸国にとっての光は、その対局にある世界においては影となる。ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)への加盟方針を打ち出した2019年が1つの契機になり、歴史の影が生まれた。

未来で何が起こるのかを完全に予測しようなどと思ってはならない。不確実性を完全に取り除くことはできないからだ。むしろ、曖昧性を許容し、どのような変化が起こりうるのかについて心構えと準備ができていることが大切である。

以下では、拙著『ゼロからつくるビジネスモデル』で紹介した、未来洞察の手法を紹介する。

ヤヌス神に問う、企業の危機管理

未来洞察をするフレームワークの1つに、ヤヌスコーンがある。これは、スタンフォード大学デザインスクールで紹介されている手法で、タマラ・カールトン教授たちによって開発された。民間企業はもちろん、アメリカ政府の国防にかかわるワークショップでも活用された実績のあるフレームワークである。

このフレームワークは、過去と未来の双方に目を向け、過去に起こった出来事から将来起こりうる出来事の洞察を得ようとするものである。ヤヌスという名は、ローマ神話の門の守護神に由来する。ヤヌスは2つの顔を持つ双面神で、入り口と出口、過去と未来を見ることができるという。

ヤヌスコーン。中央の交点が現在、左は過去、右は未来の領域を示す
(出所)井上達彦『ゼロからつくるビジネスモデル』p.206

左は過去の領域とし、右は未来の領域として、それぞれコーン(三角錐)で示す。過去の出来事は双方が交わる現在に収束していく。そして、未来に向かって広がっていくのである。

一見すると、無関係に見える出来事であっても相互に関連しあって将来を形作るものだ。このフレームワークを使うことで、関心のあるトピックのトレンドを理解できる。また、関連する出来事を並べることで、その中にパターンを見いだせるようになる。

拙著『ゼロからつくるビジネスモデル』では、ビジネスチャンスをつかむための枠組みとして紹介したが、これは将来のリスク管理にも大いに役立つ。

ヤヌスコーンには3つの特徴がある。

①過去のトレンドから未来を洞察する

1つ目は、過去のトレンドから未来を洞察している点だ。より遠くの的を矢で射るには、より大きく弓をひく必要がある。これと同じように5年先を見据えるためには10年以上前の過去を、10年先を見据えるためには20年以上前の過去を振り返るべきであろう。

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