リスクや危機に対処できる「優れた経営者」の手法 「スタンフォード大学発」未来洞察のアプローチ

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井上達彦(いのうえ たつひこ)/早稲田大学経営学術院教授。1968年兵庫県生まれ。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』などがある(撮影:梅谷秀司)

直近の30年を振り返ってみると、意外にも、われわれ日本人にも大きく影響を与えたものだけでも頻繁に起こっていることがわかる。東日本大震災(2011年)、リーマンショック(2008年)、アメリカの同時多発テロ(2001年)、阪神・淡路大震災(1995年)、バブル崩壊(1991年)、ブラックマンデー(1987年)、プラザ合意(1985年)。経営を揺るがすような出来事が5年に1度のペースで起きている。

この事実をもとに、『「守り」の経営』の著者であり、起業家を支えてきた連続起業家の浜口隆則氏(ビジネスバンクグループ代表取締役社長)は「体力のない中小企業は、守りを8割にすべきだ」と言う。

もちろん、大企業にとってもリスク対応力は肝要である。気候変動や人権問題がもたらすリスクへの対応力が、企業価値を左右する時代になったからだ。世界で進むESG(環境、社会、ガバナンス)投資に対応するためには、働き方、ダイバーシティなどにも目を向けながら、経営をアップデートしていかなければならない。

もちろん、経営を取り巻く環境の変化というのは、危機であると同時にチャンスにもなりうる。未来を洞察して社会的課題を解決し、ビジネスに生かしていけばよいのだ。

危機の認識の仕方は「点と線」

それでは、経営者はどのように対処すればよいのか。そのヒントは危機の認識の仕方にある。企業経営を左右する外部要因というのは、突如として降ってくるわけではない。前述したように、大なり小なりその兆候がある。

1つ1つの出来事は「点」に見えても、点をプロットして線で結べば注目すべきトレンドが浮かび上がる。経営者は、断続的に現れては消える出来事を兆候として捉え、それらを線で結んで長期のトレンドを描き出すべきである。

たとえば、ウクライナ侵攻にしても、それに先立つ2014年のクリミア併合、2008年のロシア・ジョージア戦争の延長線上だといえる。

歴史の影は歴史の光から生まれる。見落としてはならないのは、もう1つの流れである。1991年にソ連がロシアと14の国に分裂して以降、西側のNATOへの加盟国が増大した。1991年にはチェコ、ハンガリー、ポーランド、2004年にはエストニアを含む7カ国が、2009年にはアルバニアとクロアチア、2017年にはモンテネグロ、2020年には北マケドニアが加盟した。これを歴史の光だとしよう。

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