ドンキホーテはどこまでも「お客を第一」とする。イメージとは異なり、いわゆる奇をてらった商法を志向したことがない。お客にあわせて自社を柔軟に変えようとしてきた。安田氏はいくつものインタビューで、「当社はあえて言えば勝負をしない会社」と断言しているほどだ。ただし、社員に“任せる”点では、あまりに勝負している。
1店舗あたりのアイテム数は4万~6万点。大型店MEGAドンキホーテなら4万~10万点となる。それはコンビニエンスストアの3000アイテムと比べると13倍以上にもなる。これは大型スーパーとも負けない品ぞろえだ。スーパーは苦戦を強いられているのに、ドンキホーテは増収増益を続ける。
その秘訣を安田会長は「微調整」なる言葉で表現している。右肩上がりの経済下では、本社が一手に商品や価格決定を担い、棚をデザインすることもできる。しかし、現代においては、むしろ現場に大幅な権限を委譲する必要があるのだ、と。
商品仕入れは各店舗が主体
その権限の移譲=微調整はかなり大胆だ。商品仕入れは各店舗それぞれが主体となり、地域特性などに応じて売り場をつくっている。現場の権限は大きく、たとえば陳列棚一本の仕入れを、なんと経験を積んだアルバイトに任せてしまう。その場合の権限や予算は社員とほぼ同等とされ、アルバイトにすら「何が売れるか考えろ」と指導することもあるそうだ。アルバイトといえど、在庫処分に困ったら他店舗に「在庫を引き取ってください」と電話し頼み込む必要すらある。
しかし、このプレッシャーの裏返しとして、自ら販売した商品が売れれば愉悦につながるし、それがそのままモチベーションへとつながっていく。責任の重い仕事でありながら、まるでゲーム感覚で仕事をするのだ。ただ、このゲーム性が、ドンキホーテをさらにバラエティー豊かな店作りを可能としている。いまでいう「ゲーミフィケーション」を実践していた。
年配の方や、さほどドンキホーテに行かない層からすると、「あのゴチャゴチャした店ね」と思うだけだろう。しかし、何店かのドンキホーテに行くと、そこに置かれた商品が店によって多様であると気づく。筆者の自宅に近いドンキホーテ六本木店は外国人向けの商品にあふれているし、新宿店は猥雑なグッズが多い。と思えば、沖縄にあるドンキホーテは、シニアを意識してゆったりとした作りになっている。これも現場委譲の力か。
商品仕入れも多数の成功例がある。かつてパーティーグッズといえば東急ハンズが定番だった。一方、ドンキホーテにはお客より「パーティーグッズがないか」との要望がよく寄せられていたという。通常のチェーン店であれば、お客の要望を本社が拾い上げて仕入れるまでに時間がかかる。対して、ドンキホーテは各店舗が裁量に応じてどんどん仕入れていく。この柔軟さで、いまやパーティーグッズ=ドンキホーテの図式が成立した。ハロウィン関連の売り上げを例に取れば、昨今のブームもあり、なんと5年で10倍以上に拡大している。
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