労働者もこれと同じだ。労働者の交渉力は、労働生産性などではなく、直接的に「voice or exit」しかないのである。
つまり、声を上げて、賃金引き上げを要求することであり、そのために、労働組合があるのである。これがvoiceだ。昨今、労働組合が、社会的な環境変化で弱体化し、かつ働き手自身からも軽視されている。それは働き手の自由であるから、そうすればいいが(労働組合が役に立たなくなってきているのも事実である)、それならば、exitを使わなければ、賃金が上がらない。いやなら辞める、ということである。転職する、ということである。
「辞める力」が弱い日本の労働者
このexitの力が弱いことが、日本の賃金が上昇しない、唯一、最大の理由である。辞めないんだったら、経営側は賃金を上げる必要はまったくないようなものだ。出世争いをさせて、同じ賃金水準で働かせればよい。「シュウカツ」(就活)に命を懸けて、正社員の立場を得たらほっとして、「これで一生安泰だ、もう社畜だな」、などと嬉しそうに半ば自虐しているからダメなのである。雇用保障を得て、賃金上昇を捨てるのであれば、これはもう自業自得だ。
最近の学生たちを見ていると、さすがに彼ら彼女らは、ひと昔前と違って、初任給(しかも年俸)に非常に敏感だ。だが、大雑把に言えば、ほとんど最初の給与水準だけで、就職先を決めている。いわゆるコンサルや外資系企業が人気なのは、給与が高い、それも最初の給料が高い、それだけではないか。先のことはあまり考えていない(一生同じところで働くと信じる理由もないし、したくもない)といったら言いすぎだろうか。
初任給の高い業界は、外資系がリーダーの業界であり、日系の業界他社の給料に対抗するために、高い水準に引き上げているだけだ。むしろ、重要なのは、かつては「SEか」などといって蔑まれることもあった、IT関連などの職種の人々の動向だ。実務経験を積み、転職(磨いた技術を基に、より大きな仕事ができる企業に就職)を繰り返すほど、給料はうなぎのぼりだ。
アメリカなどでは、このように転職で給料が上がっていくのが当たり前だ。転職しない人は、所得水準は上がりにくい。「ベースアップ」など存在しないと言っていい。役職が上がるか、転職して役職が上がらない限り、給料は増えないのだ。だから、彼らは学部を出て就職して経験を数年積んで、ビジネススクールなどに入る。MBA(経営学修士)なども取得しつつ、転職して給料を2倍、3倍にしていくのである。
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