日本人の「賃上げ」という考え方自体が大間違いだ 給料を決めるのは、政府でも企業でもない

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競馬である。今回は、一口馬主について論じてみたい。

さまざまなクラブでの出資申し込みのシーズンである。しかし、ここにも価格上昇の波が押し寄せている。背景には円安があるが、直接的な理由は、この連載でも筆者の前回記事の最後の部分「夏の北海道を世界の競馬の舞台に」のところで言及したセレクトセール(セリ)である。ひとことで言えば、個人株主がセリで興奮しすぎて、価格を異常に釣り上げたことが少なからず影響しているからである。

だから、極端に言えば、セレクトセールには出なかった馬などが一口馬主業界に回ってくるが、つられて価格が上昇せざるをえない。要は、異常なバブルが、個人馬主の市場に起きているからなのである。

大種牡馬だったディープインパクトとキングカメハメハがいなくなった今、2億円を超える馬はすべて極端に割高ではないか。この種牡馬2頭は別格であり、それ以外の種牡馬の仔に4億円、5億円を出すのは、もはや採算度外視である。確かに、ディープ産駒がいないのだから、それ以外の種牡馬の馬がダービーを勝つ可能性が高まっている。しかし、それは4億円の馬も5000万円の馬も同様に高まっているのであり、「億の馬」を買うのはばかげている。

しかし、高騰の理由は、ディープが死んだことによる。今や、確実なスーパースターがいなくなり、次のスター種牡馬を探している。サラブレッドのマーケットは、3歳レースの頂点である日本ダービーをとるという夢で成り立っていると言っても過言ではない。「この馬が、どんな馬に成長するか」、という夢に賭ける市場なのである。

だから、もっともロマンティックであり、金持ちの市場であるのだが、カネによりカネを求める強欲金融資本主義のバブル株式市場とはまた異なる。いわば、ロマンティックなバブル市場、「カネまみれ夢まみれ」の市場なのである。だから、どんな馬にもチャンスがある。だから、可能性があれば、どんな馬にも1億円出す。5億円も辞さない。異常なロマンの市場なのである。

実績ある「地味な産駒」の牝馬を買え!

われわれは、幸運なことにそのロマンの幻想に巻き込まれたくても、カネがないので参加できない。だが、一口馬主は、価格高騰下にはあるが、ロマンを追い求める個人馬主よりも投資リターンが相対的に高く(マイナスではあるが、マイナス幅が小さい)、カネがないほど有利な珍しい市場にいるのである。

ここで成功するコツは以下だ。「ディープの次のスター」などと期待される種牡馬は避ける。その代わりに、高齢ではない種牡馬で、産駒の実績はすでにそこそこ出ているのがいい。逆に言えば、ダービーなどはとれそうもないという意味で夢は消えつつあるわけだが、しかし、リーズナブルな一流種牡馬の仔がよい。しかもこの場合、牡馬ではなく牝馬に出資するのがよい。

なぜなら、牡馬は「当たりはセレクトセール、それ以外が一口馬主へ」という傾向が否定できないが、牝馬にはないからだ。生産者は素晴らしい繁殖牝馬候補を手放したくはないから、むしろ牝馬の場合は、期待の馬ほどクラブ(一口馬主クラブ)に回すからだ。

地味な種牡馬としては、個人的には、ルーラーシップ、オルフェーヴル、ミッキーアイルあたりを勧めたい。その牝馬を買うのである。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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