日本人の「賃上げ」という考え方自体が大間違いだ 給料を決めるのは、政府でも企業でもない

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第1に、厚生労働省の審議会で勧告水準が決まったが、政治的思惑があるにせよ、要は、労使交渉である。経営者代表と労働組合代表が、メンバーとして話し合う。交渉そのものである。

第2に、最低賃金は例外である。最低賃金だけは政府が介入する必要がある。なぜなら、最低賃金で働く労働者とは、労働市場において、もっとも立場が弱い当事者であるからである。もし「最低水準でもいいから働きたい」などと言ったら、経営者は、ただ働きに近い条件で雇えてしまう。だから、法律で彼らや彼女らを守り、政府が代わりに交渉してやる必要がある。

賃金の水準は「自分で勝ち取るべきもの」

しかし、それ以外の労働者は、力を持っている。最低賃金以上で働けるのである。もちろん「労働基準法」などのいわゆる労働三法により、労働者の権利は、法律と政府で守る必要がある。しかし、賃金の水準は、最低賃金を超えれば、あとは自分で、交渉によって勝ち取るべきものである。その努力が不足しているから、賃金が低いままなのである。

ここで、投資の世界におけるコーポレートガバナンス(企業統治)を考えてみよう。実は、これも多くのメディアだけでなく、有識者にすら誤解されている。

コーポレートガバナンスの本質は、投資家が、自分たちの出資金を守るためのものだ。わかりやすく株主に限って議論すると、株主は、強いように見えて弱い立場にある。

なぜなら、出資するとは、ただ、現金などを差し出すことであるからである。果たして本当に返してくれるのか。確固たる約束もない。いつ何に流用されるかわからない。だから、法律が必要で、株主が持ち分として分配される残余財産分配請求権を持っているのである。それと、重要事項を決定する際の株主総会の議決権を持っているのである。

最低限この2つがなければ、立場が弱すぎて、誰も株主になどならない。そして、自分の出資金を守るための手段は2つである。それは「voice or exit」と呼ばれる。株主総会で声をあげるか(voice)、経営が気にいらなければ、市場で株式を売って、株主であることを辞めること(exit)である。

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