「民主主義と資本主義」奇妙な連携が破たんする日 もはやお荷物?民主主義はどうなってしまうのか

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こういった話、つまり「世論に耳を傾ける民主主義的な国ほど今世紀の経済成長が鈍い」という話をすると、すぐに上から目線のお叱りやクソリプが飛んでくる。「見せかけの相関で小躍りするなこの低脳が!」という怒号だ。確かに、相関は因果ではなく、民主主義と経済成長の間に負の相関関係があるからといって、民主主義が経済停滞を生み出しているとは限らない。

大陸・地域問わず非民主陣営の急成長が驚異的

しかし、さらに分析を行うことで、民主主義こそが失敗を引き起こしている原因だとわかってきた。図1で示した民主主義と経済成長の関係は、どうやらちゃんと因果関係でもあるようなのだ。ただ、その点を示す分析はちょっと専門的になる。

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経済低迷のリーダーはもちろんわが国だが、日本だけではない。欧米や南米の民主国家のほとんども実は目くそ鼻くそで、地球全体から見ると経済が停滞している。

逆に、非民主陣営の急成長は驚異的である。爆伸びのリーダーは隣国だが、これも中国だけではない。中国に限らず、東南アジア・中東・アフリカなどの非民主国家の躍進も目覚ましい。

「民主世界の失われた20年」とでも言うべきこの現象は、中国とアメリカを分析から除いても、G7諸国を除いても成立するし、どの大陸・地域でも見られる。グローバルな現象である。

*1 Piketty, T. Capital in the Twenty-First Century. Harvard University Press, 2014.(『21世紀の資本』みすず書房、2014年)
*2 Scheidel, W. The Great Leveler: Violence and the History of Inequalityfrom the Stone Age to the Twenty-First Century. Princeton University
Press, 2018.(『暴力と不平等の人類史――戦争・革命・崩壊・疫病』東洋経済新報社、2019年)
*3 Canfora, L. La democrazia. Storia di un’ideologia. Laterza, 2008. (Democracyin Europe: A History of an Ideology. Wiley-Blackwell, 2006)
橋場弦『民主主義の源流:古代アテネの実験』(講談社、2016年)
*4 2021年の衆議院選挙で65歳以上の投票者が全投票者に占める割合は約42% と推定される。総務省「国会議員の選挙における年令別投票状況」
*5 余談だが、非効率と不合理だらけの大組織や大企業もまた、おそらくもうひとつの凡人至上主義的緩衝材である。
*6 プラトン『国家〈上・下〉』(岩波文庫、1979年)
*7 R ousseau, J. Du Contrat Social, 1762.(『社会契約論』岩波文庫、1954年)
*8 Feldman, N. The Arab Winter: A Tragedy. Princeton University Press, 2020.
*9 Sunstein, C. #republic: Divided Democracy in the Age of Social Media.Princeton University Press, 2017.
*10 L evitsky, S., and D. Ziblatt. How Democracies Die. Crown, 2018.( 『民主主義の死に方』新潮社、2018年)
Runciman, D. How Democracy Ends. Hachette Audio, 2018.(『民主主義の壊れ方』白水社、2020年)
Applebaum, A. Twilight of Democracy: The Seductive Lure of Authoritarianism. Signal Books, 2020.(『権威主義の誘惑:民主政治の黄昏』白水社、2021年)
*11 Vanessa A. B., N. Alizada, M. Lundstedt, K. Morrison, N. Natsika, Y.Sato, H. Tai, and S. I. Lindberg. “Autocratization Changing Nature?”
Democracy Report 2022. Varieties of Democracy (V-Dem) Institute(2022). Figure 4
成田 悠輔 米イェール大学助教授・ 半熟仮想代表

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なりた・ゆうすけ

専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。報道・討論・バラエティ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員 などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。

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