「民主主義と資本主義」奇妙な連携が破たんする日 もはやお荷物?民主主義はどうなってしまうのか

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実直な資本主義的市場競争は、能力や運や資源の格差をさらなる格差に変換する。そんな世界は、つらい。そこに富める者がますます富む複利の魔力が組み合わされば、格差は時間とともに深まる一方で、ますますつらい。このつらさを忘れるために人が引っ張り出してきた鎮痛剤が、凡人に開かれた民主主義なのだろう*5。

これに近い見方は民主主義のはじまりからずっとある。たとえば、生まれたばかりの民主主義を観察したプラトンが書いた『国家』だ*6。

貧富の差が拡がりすぎると、貧乏人は金持ちに対する反乱を企てる。反乱に勝利した貧乏な大衆が支配権を握ったとき立ち上がる政治制度が民主国家だ。そしてプラトンは、こういう民主化は優秀者に支配された理想国家の堕落だと考えた。プラトンの師ソクラテスを死刑に処したのが民主国家だったことからもわかるように。

民主主義の建前めいた美しい理想主義的考え方は、したがって、凡人たちの嫉妬の正当化とも言える。近代民主主義の画期性は、甘い建前をただの建前にとどめず、かといって建前を本音にするように人を洗脳する無理ゲーに挑むのでもなく、皆が合意したということになぜかなっている社会契約として、建前を既定のルールにしてしまった点にある*7。

暴れ馬・資本主義をなだめる民主主義という手綱……その躁うつ的拮抗が普通選挙普及以後のここ数十年の民主社会の模式図だった。

資本主義はパイの成長を担当し、民主主義は作られたパイの分配を担当しているとナイーブに整理してもいい。単純すぎるが、単純すぎる整理には単純すぎるがゆえのメリットがある。

もつれる二人三脚:民主主義というお荷物

しかし、躁うつのバランスが崩れてただの躁になりかけている。資本主義が加速する一方、民主主義が重症に見えるからだ。

今世紀の政治は、勃興するインターネットやSNSを通じた草の根グローバル民主主義を夢見ながらはじまった。日本でも、2000年代にはインターネットを通じた多人数双方向コミュニケーションが直接民主主義の究極形を実現するといった希望にあふれた展望がよく語られた。

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