悪ガキ副区長が目指す「誰も来ない区役所」の真意 行政も民間も「悪ガキ型トップ」が常識を覆す

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手続きはすべてオンラインでできる時代です。バーチャル空間上で、アバターが相談に乗ることも可能でしょう。渋谷区では、それを徹底していこうと考えてきました。民間と同等、もしくは民間以上のサービスをつくるのが公共セクターの役割だと思うからです。

渋谷区ペーパーレス物語

このときに、課題となったのがペーパーレスです。

副区長に就任した当初、役所の業務は紙しかありませんでした。僕が「ペーパーレスにしよう」と言うと、みんな「そんなこと無理です」と言いましたよ。そこで、創造と破壊。「あるべき姿」を見せて乗り切りました。

役所は、自分たちが紙ベースの仕事をしているから、お客様にも紙を渡して記入してもらいます。でも、役所が完全デジタルになれば、お客様も便利ですよね。ところが、流れが逆なんですよ。お客様が先にデジタル化していて、役所のほうが後になっている。

このために起きたのが、コロナでの特別定額給付金の大混乱です。申請はオンラインで受けつけているのに、役所のほうは、受付後の仕事を手作業でやっていた。そのために、ミスが多くて給付のスピードもすごく遅い。

だから渋谷区では、自分たちのデジタルトランスフォーメーションをまず先にやって、それをお客様に提供するという流れをつくりました。

入口から出口までをデジタル化し、AIから入って、最後は人間がチェックしますが、お客様に通知が行くまでオートメーションでできる仕組みをつくったのです。

例えば、保育園の入園審査。従来は紙に記入して申請してもらい、受け取った情報を職員が端末に読み込んで、点数を計算して決めるということをやっていました。結果が通知されるまでにかかる時間は、だいたい3週間でした。

しかし、デジタル化した今、渋谷区の入園審査はたったの数時間です。これなら、万が一落ちてもすぐに次の手が打てる。これが、サービスというものでしょう。

また、ほとんどの申請はLINEでできるようにもなっています。例えば、支援金や給付金は、マイナンバーカードを連携していれば、銀行口座がなくても、LINEで申請して、全国のセブン銀行の端末ですぐに受け取ることができます(ハッピーマザー出産助成金で実証実験中)。

役所側は郵送の手間がいりません。審査もAIがやりますし、本当にお金を届けたい人にすぐ届けられます。コロナの特別給付金は、世帯主の口座にまとめて入金される仕組みでしたから、別居中の奥さんや子どもにお金が渡らなかったり、世帯主が勝手に飲酒やギャンブルに使ってしまったりという問題が起きました。

給付金を受け取る人を選別できない仕組みだからです。そこで、渋谷区は、民間のソリューションを使ってこの仕組みを開発しました。これはまさに創造と破壊です。

また、区のサイトにログインすれば、ログを保存することもできます。例えば、所得や世帯の内訳、子どもの健康状態や親の介護状況など、その人の抱えている問題が入力されていれば、その情報をもとに「渋谷区があなたにできる支援は、これです」と提示することもできます。

アマゾンなど、民間では当たり前に行われているパーソナライズされたレコメンデーションですが、行政としては珍しいのではないでしょうか。渋谷区では、これを今年9月から立ち上げるために、現在準備中です。

次ページ行政でも民間でも「革新を起こす人」の特性は同じ
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