鎌倉が「タクシー運転手に人気」である面白い事情 近隣や遠方から"出稼ぎ"に来る人たちが多い訳

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鎌倉スマイルタクシーは、西口に絞り約10台で営業をしている。住宅街への移動が大半だというが、創業から大きなトラブルが起きたことはほとんどなく、クレームの数も数えるほどだ。恒次さんから見た鎌倉のタクシー利用者には明確な傾向があるという。

「酔っ払いやクレームをつけるほうが珍しいほど、とにかくお客さんの質が高い。この点に尽きます。それだけにタクシードライバーを見る目も厳しい。ほかの地域では業界の慣例的に短距離を嫌がるドライバーさんもいるかもしれませんが、鎌倉ではそれは通用しません。日常的に皆さんタクシーを利用されるので、目が肥えている。

ただそれだけにしっかりとしたサービスを提供できれば、会社名でも選んで貰えるということです。ウチの研修では、『鎌倉営業は短距離の積み重ねなのでそれが嫌ならここではできませんよ』とはっきり伝えています。そんな背景から、適正がないと思った方は面接でお断りすることも珍しくありません」

実際に西口でタクシーを利用してみた。その際にドライバーはこんなことを話していた。

「確かにお客さんの求める水準は高いですよ。そして、『この短距離をタクシーで』ということも多い。ただ、その分優しい人もたくさんいるんです。現金での支払い割合が高いのも助かっている要素ですが、短い距離の利用に引け目を感じるのか、『お釣りはチップで』と5000円札や時に1万円を渡されたことも何度もあります。利用料金よりもチップのほうが多いって、そんな場所はほかではなかなかないでしょうね」

大河ファンのタクシー利用も増えている

夏場に向けて観光客の足も戻りつつあるようだ。現在放映中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の影響もあり、大河ファンのタクシー利用も増えているという声も聞こえてきた。

前出のKGグループでも車体のラッピングなどで、観光客へ向けたPRも行っている。

『鎌倉殿の13人』の主人公、北条義時をラッピングしたタクシー(写真提供:KGグループ)

ここ数年でカフェやこじゃれた飲食店が増えた影響からか、「大学生のような若者の観光客も急増している」と話すドライバーもいた。こういった変化についても地元民や商店街からもおおむね好意的な反応が多いのも、この地の懐の深さだろうか。

全国平均よりも高い60代半ばが多い年齢層のドライバーたち、稼働台数を制限したうえでの売上高であるという点など、課題も多く残されている。それでも鎌倉は、タクシードライバーにも利用者にとっても“優しい”地域であることは現地で感じさせられた。鎌倉はタクシー業界に残る、数少ないオアシスといっても大げさではないのかもしれない。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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