医療的ケア児を受け入れた地域の学校が行った事 2年前から始めた就学相談、ICTの活用で支援も

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研修会当日、福島さんはVOCAアプリを用いた学習をその場で実演した。今回、おすすめしたアプリは「絵カードVOCA『しゃべるんです』(作成者Kazuhisa Yamamoto)」と、「どーれかな(〇×問題版、 作成者Kouichi INAFUKU)」だった。前者はコミュニケーション用アプリ、後者は教育用アプリで、どちらも無料でダウンロードできる。

福島さんからの呼びかけに応じて、楓さんが「おはようございます」「イイネ!」の絵をタップすると、音声が聞こえてきた。楓さんは驚きながらも笑顔になり、何度もタップを繰り返した。

福島さんは「音声アプリを使うと、子どもは喜び、学習のモチベーションが上がります。アプリを選ぶときは、ユーザー(教員など)が絵カードや音声を自由に編集できるものを選ぶと便利です」などと教員に助言した。

母親の佳代さん(37)は、「重度障害がある息子はコミュニケーションで受け身になりがちですが、この方法なら息子のほうから周囲にコミュニケーションができるようになります。周囲に自分の気持ちが伝わったという実感も持てるようになったと思います」と話す。

2番目の課題については、楓さんの指先がうまく動かないため、タブレット画面を複数回タップしたり、長押し状態になったりしてしまう。そこで、福島さんがタブレットの設定の「アクセシビリティ(利用しやすさ)機能」を「タッチ調整をオンにする」に変更したところ、画面全体のどこを触っても正確にタップできるようになった。

これは、Apple製品の特徴として、ユーザーが障害によって困ることについては、あらかじめ補助機能として設定されているからだ。

写真撮影が好きな楓さんは、これで教員の手を借りずに画面をタップしてカメラシャッターを切ることができるようになった。参加者がタブレット前に集まると、楓さんがうれしそうに何度もシャッターを押していた。今後は、学校行事でカメラ係を任せられる。

「今の時代、障害があってもテクノロジーを上手に使うことで、暮らしや学びがよりよくなっていきます」と福島さんは話す。

受け入れが全国的に広がりにくい背景

文科省の方針により、全国の特別支援学校は地域の障害児の学びをサポートする「センター機能」の役割も持つ。このため、福島さんのような人材が、今、地域で求められている。

このような地域の小中学校で人工呼吸器を装着する子どもの受け入れは、1990年代から兵庫県や大阪府で先進的に取り組まれてきた。だが、他県の教育委員会によっては「安全・安心を確保できない」などと主張し、全国的に広がりにくかった。

楓さんが通学する太田小校長の小野政和さんは(59)は、学校での安心・安全の確保について、「確かに、学校では何が起こるかわかりません。しかし、人工呼吸器のお子さんを含めた全員がリスク回避の対象となります。学校生活の安心・安全を守るためには、まず、人工呼吸器の仕組みや楓くんの状態について知り、教育委員会と連携しながら進めています」と話す。

この点について、涼緒奈さんの母の藤井智代さんは、医療的ケアが必要な重度障害のある子どもを地域の学校に通学させるためには「学校だけに過度の負担や不安を負わせないような工夫が必要」と考える。そこで、今回の研修会ではもう1つの目的として、涼緒奈さんや楓さんの生活を日頃から支援する関係者をネットワーキングする機会を作りたかった。

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