昔のがんの終末期では、確かにそういった面がありましたが、今は違います。 いたずらに「怖い」というイメージを広めることは、不要な不安や恐怖を患者さんやご家族にもたらしてしまいます。だからこそ、がんに伴う苦痛の内容やその程度、対処法を正しく理解し、恐れすぎずにいることが大切になります。
がんによる苦痛の内容は多岐にわたります。
近代ホスピスの生みの親であるイギリスの医師D.C.ソンダースは、がんによる苦痛を理解しやすくするために、その内容を4つに分類しました。それは、①身体的苦痛、②精神的苦痛、③社会的苦痛、④実存的(スピリチュアル)な苦痛です(下の図)。
この4つが相まって、全人的な苦痛を体験するのです。
生きる意味を失うことの苦痛
精神的苦痛と社会的な苦痛、実存的な苦痛の境目はわかりにくいかもしれませんが、ユダヤ人強制収容所での実体験を描いた『夜と霧』で有名な、オーストリアの医師で心理学者のヴィクトール・フランクルによると、実存的な苦痛とは、「その人の精神が健全に機能していたとしても抱く、生きる意味を失うことへの苦しみ」と述べています。
たとえば、ある人ががんによって仕事を失えば、それは社会的苦痛に分類されますが、そのことで生きがいを失い、生きる意味を感じられなくなれば、それは実存的な苦痛です。そして、その結果うつ状態に精神が陥れば、精神的な苦痛が生じている、ということになります。
4つの苦痛のなかで、まず多くの方がイメージするのは、痛みなどの身体的苦痛でしょう。身体的苦痛は主に、大きくなったがんによって組織がダメージを受けることで起こったり、がんが神経を触ることで起こったりします。
このような耐え難い身体的苦痛に襲われると、その苦しみにほとんどの意識が向かい、別のことは考えられなくなります。身体的苦痛が適度に緩和されて初めて、精神的、社会的、実存的といった人間らしい苦悩と向き合うことができるともいえます。
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