最低賃金を時給1200円に上げるのが得策と見る訳 経済学の定石では先に上げるのは愚策とされるが

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経済学の専門家から見て悪手の施策が2022年の秋から冬にかけてのこの時期だけは「会心の一撃」になるかもしれない。なぜ政府は今、最低賃金を上げるのが望ましいのか?

その理由を3ステップで説明します。

① 政府が目標とする正しいインフレのためには賃金が上がらないといけない

アベノミクス以来ずっと語られてきたのが日本にはインフレが必要だということでした。日本政府が8年の間、ずっと達成できなかったこの「インフレ目標2%」が原油高、小麦高、円安によってあっさりと達成されてしまいました。

デフレスパイラルを脱却したにもかかわらず経済が悪化しているのは賃金が上がらないからです。本当は景気がよくなって、賃金が上がることで日本経済全体では2%の良いインフレが起きることを期待していたのです。

インフレが2%なら賃金は2%以上、アメリカのようにインフレが8%なら賃金が8%以上上がればそれはいいインフレになります。そこで政府はこの春、インフレが現実化する前の春闘の段階で経済団体に対して賃上げを要請していました。

実は今年の春闘の賃上げ率は2.27%と4~5月の生鮮食料品を除くインフレ率の2.1%を上回っています。つまり、大企業の正社員の家庭は値上げラッシュにそれほど困っていないはずなのです。そして春闘は終わり、正社員の給料の引き上げには長い交渉が必要なので、政府も次に賃上げができるタイミングは2023年度だと考えています。

一方でこの春の値上げラッシュはウクライナ侵攻前、中国のロックダウン前の事象で起きたことであって、この秋に小麦や半導体などさらに値上げが起きるはずです。つまり中流家庭でも事態はこの先さらに悪化することが予測されています。

日本人の経済事情は3つの所得階層で全然違う

② 賃上げすべきは余裕のある正社員ではなく余裕がない非正規労働者

さて、春闘の賃上げ率が消費者物価指数を上回ったのにもかかわらずなぜ消費者が値上げに悲鳴を上げているのでしょう? 実は日本人は3つの所得階層に分断されていて、その3つの層で経済事情がまったく異なるのです。

春闘で賃上げ2.27%を勝ち取った大企業の正社員層は日本の従業員人口に当てはめると約2割です。過去2年間のコロナ禍で使うことができなかった強制貯蓄50兆円を抱えているのが労働者の中では主にこの層で、百貨店や高級ホテルでのリベンジ消費もこの層が支えています(注:リベンジ消費は他に引退した高齢者の富裕層も関係しています)。

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