競技からは、離れたままだ。またいつか関わりたいと思っていたが、高3のときにスタッフとして大会に参加した際、「今日は、お父さんは?」とみんなに聞かれた。事情を話すのは「父親にとってもかわいそう」だし、みんなもショックを受けるだろうと思い、言葉を濁した。今後も同じことを聞かれると思うと、もう近づく気になれない。
「私は父がいたから、あの競技で成果を残せたと思うんですけれど。でも逆にそのせいで、父の立場を悪くしたんじゃないかなって責任を感じちゃうところもあって。毎日私の練習のために早退していたから、会社の人間関係を損なってしまって、そういう積み重ねで、うつ病を発症してしまったんじゃないかなって」
それは関係ないよ、と思った。お父さんはむしろ、舞さんと過ごした日々に救われていたのであって、舞さんが負い目を感じる必要などまったくない。でも子どもは、舞さんは、そんなふうに思ってしまう。
「私がほかの人と違うなと思ったのが、楽しかった時期が長かったところ。“ふつう”だった父親をずっと見てきたぶん、壊れちゃった父親を見るのが辛かった。今でも『いい父親だったな』と思います」
弟には自分と同じ思いをさせたくない
今回の取材は、舞さんが打ち込んできた競技の話から始まった。舞さんはとても楽しそうに、それがどんなものか、目を輝かせながら話してくれた。でも父親が壊れてしまったときの話になると、表情は一変した。Zoomの画面越しにも、悲しみが伝わってきた。
でも、弟の話をするときは、またちょっと顔が明るくなった。
「いま弟は思春期で、お肌のことを気にしているんです。スキンケア(用品)とかいろいろ買ってあげたら『こんなに、ごめん』みたいに、家のお金のことを気にしてくれて。
私は大学のとき、友達と遊ぶのとかいろいろ我慢したので、やっぱり弟にはそういう思いをさせたくないなって。弟は小さいときに辛い思いをした分、これからは自分の好きなことができるような人生を歩んで行ってほしいな、って思います」
それを言うなら、舞さんだって同じなのに。せつないのに、ちょっと微笑ましい。弟にいま自分ができることをしてやれることが、舞さんの喜びにもなっている。そんな舞さんにこそ、これからは自分の好きなことをしていってほしい。
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