でも、高校2年の終わり頃、父親は変わり始めた。会社で信頼していた部下や同僚に裏切られたらしく、もともと好きだったお酒の量がどんどん増えていった。
舞さんは、父親の異変にすぐには気づかなかった。この頃、競技はスランプが続き、父親との考え方の違いも感じるようになり、やや距離をおいていたからだ。
「なんか、おかしいな」と気づいたのは、高3の夏頃だった。父親は転職先でも人間関係に悩み、際限なくアルコールを飲むようになっていた。うつの症状も激しく、「もう死にたい」とたびたび口にする。次第に、多重人格のような症状も見せるようになった。
父親は、何度も自殺予告を繰り返した
「一日に大体、2、3人格くらい見ました。子どものようにワンワン泣いたり、暴力をふるったり、ひたすら謝り続けたりして、誰かに操られているのかな? と思うくらい、今まで見たことのないような父親がたくさん出てくる。もともとすごく真面目で、人当たりもよくて、みんなから好かれる父親だったからこそ、なんかもう信じられないというか。本当にそのショックが大きかったのを覚えています」
舞さんも毎日泣くようになり、受験勉強にも支障が出た。この頃、舞さんは2回家出をしている。一度目は母方の祖母の家に身を寄せたが、残った母親と弟のことが気がかりで家に戻った。二度目は小学校からの親友の家に、一週間ほど泊めてもらった。
父親は、何度も自殺予告を繰り返した。「何線の、何時何分の電車に飛び込む」と言われ、母親は職場に行けなくなり、舞さんも学校に行けなくなる。でも幸い、実行には至らず、父親はいつも「がっかりしたように」家に帰ってきた。
舞さんは学校に行っても、教室にいるのが辛かった。同級生らが笑い合う明るい空間に、身を置くことが耐えられない。保健室に行ったり、空き教室を用意してもらったりして、なんとか勉強を続けた。泣きながら先生に話を聞いてもらうこともあった。
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