再度の超音波検査で、肝臓に影があると判明。その後、成人男性の握りこぶし大の肝臓がんとわかった。3月には腹水もがんの圧迫による影響の可能性が高く、肺への転移もあり、手術では完全に取り切れないステージ4で余命6カ月と告知された。
「その大きさの悪性腫瘍を、超音波検査で2回も見落とすのか?という疑問はありますが、今さらどうこう言っても仕方ない。余命半年と言われて死を覚悟しました。主治医から手術はできないが、新しい抗がん剤があるので、それを試してみますか?と聞かれました」
それが効いてがんが小さくなれば切除できるかもしれない。寺川さんは腹をくくった。
会社側との面談時の、突然の心境変化
寺川さんが次に考えたのは家族のこと。当時22歳の長男は社会人になって家を出ていて、同じく21歳の長女も再来年に卒業予定と、親元を離れつつあった。一方、心配なのはルーマニア人の妻のことだった。妻は日本語が得意とは言えず、今後必要になる手続きは早く始めておくべきだと考えた。
寺川さんは「万が一に備えて、妻に必要な手続きについて説明してもらえないか」と、会社に相談。自宅最寄り駅前のレストランで話し合いが持たれた。
「手続きの話はとりあえずいいです」
自身が依頼した席で、なぜか寺川さんはそう切り出した。隣で妻は当初から泣いていた。彼は当時の心境の変化を振り返った。
「会社に電話した時点では死を覚悟していて、今できることをしなければならないと手続きの説明をお願いしました。家族が路頭に迷うわけですから」
だが、面談当日の寺川さんは直感した。今その話をしたら、きっと自分も妻も心が折れてしまう。今する必要はない、妻をもっと悲しませるだけだ、と。
「諦めるのはまだ早い。できるかぎり頑張ってみて、それでもダメならそのときに考えよう。今はまだ妻や家族に悲しみを背負わすわけにはいかない」
寺川さんは自分のことより、妻や子供たちのことを最優先に考えていた。
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