病を抱えて独居というと、つい「かわいそう」「1人で大丈夫なの?」と心配してしまいがちですが、家族がいないことを不自由と思うか、自由と思うかは人それぞれ。自ら1人の生活を選び、自由に生きてきたAさんにとって、最期まで1人で思い通りに過ごすことがとても自然なことのように思えました。
自分が過ごしたいように過ごす――。在宅療養の大きなメリットが、この自由に過ごせることにあると思います。
病院は治療が主体となる場所であるがゆえに、入院生活には何かと制約がつきます。ですが「病気と付き合っていく」という場合や、「治療によって治る見込みがない」という段階に入った場合には、たとえ一人暮らしであっても在宅療養を選択肢に入れてもいいと感じています。
自宅で亡くなる人が昨年より3万人増
厚生労働省の人口動態調査によれば、2020年に「自宅で亡くなった人」は約21万6千人と、前の年から一気に3万人も増加しています。これはコロナの感染拡大で、家族が面会できなくなったことから、自宅での看取りを望む人が増えたためだとみられています。
実際に私のクリニックでも、コロナ禍になって以降、在宅での看取りが1.3倍に増えました。いざというときに面会できるかできないかという制約が、人に与える影響はこんなにも大きいものなのだと実感しています。
在宅療養中に、思い切ってやりたいことを実現させた人もいます。末期がんだった男性Bさん(55)もその1人。約2カ月の在宅療養生活でしたが、在宅ケアが始まって1カ月後に、長年ファンだった演歌歌手のコンサートに行くことができました。
人気歌手なだけあり、コンサートのチケットは毎回争奪戦で、ようやく抽選に当たって手にした念願の機会です。夫婦揃って演歌歌手のファンだというBさん宅には、歌手の写真がびっしり貼られ、どれだけ筋金入りのファンなのかは一目瞭然です。生活空間というのは想像以上に雄弁で、私たちも患者さん宅にお邪魔することで、さまざまな情報が得られるのです。
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