神戸の「万年筆インクが年2万個」売れる深い理由 「Kobe INK物語」誕生の背景に阪神淡路大震災

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「有馬アンバー」は依頼をきっかけに生まれた(筆者撮影)

竹内さんのインスピレーションだけではなく、地域の人の依頼をきっかけに生まれた色もある。その1つが「有馬アンバー」だ。「有馬の色を作ってほしい」という声が寄せられたため、温泉街を歩き金泉に浸かった。湯をすくいあげ、窓から射す陽光に透かしたとき、指の間からこぼれ落ちていった琥珀色。その色を再現したいと考え、温泉旅館のオーナーと相談しながらインクを開発していった。

海外へ、若い人へ広がる神戸の色

開発だけではなく、販売も担った。店頭でKobe INK物語の開発ストーリーを語ると、興味を持って購入してくれるお客さんが多い。その一方で、「万年筆なんて今さら使わない」というお客さんには、手書きの良さを伝えるところから始めなければならなかった。「販売後4、5年は採算をとれていなかった」と竹内さんは振り返る。

竹内さんは、年間約6色のペースでKobe INK物語を開発してきた。Kobe INK物語は2022年6月現在、117色に及ぶ(筆者撮影)

それでも、年に約6色のペースで新色を作り続けた。人気色がある一方で人気とは言えない色もあったが、期間限定販売の色を除き、1色も廃番にしなかった。「地域の色を廃番にすること」は考えられない。それに、一時的にヒットさせるのではなく「長く続けていくこと」にこだわりたかった。

30色に達した2012年、知り合いの大学教授の後押しで第4回日本マーケティング大賞にノミネートされた。だが、最終選考まで残るも入賞を逃してしまう。「地域の文具店やとダメなんかな」と落胆していたところ、事態は思わぬ方向へと展開した。ノミネートを機に朝日新聞社から、神戸市立博物館で開催するマウリッツハイス美術館展とのコラボインクを作ってほしいと依頼されたのだ。

マウリッツハイス美術館展とコラボした「フェルメール・ブルー」(特別限定販売のため、現在は取り扱いなし)はヒットした(筆者撮影)

そこで、展覧会の目玉作品であるフェルメール《真珠の耳飾りの少女》のターバンに着想を得た「フェルメール・ブルー」を開発。この「フェルメール・ブルー」が、多くの人の心をつかんだ。販売開始とほぼ同時に500個が完売し、追加生産分の1100個も会期中に完売したのだ。

万年筆を使ったことがない人がインクを購入するほどの人気ぶりだったという。海外からも問い合わせが殺到し、これを機にKobe INK物語は海外の文具店に並ぶことに。現在はアメリカや台湾を含む10カ国以上にKobe INK物語を輸出しているという。

マウリッツハイス美術館展以降は、地域の色を作りながら、神戸市で開催される美術展とのコラボインクも開発していった。

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