神戸の「万年筆インクが年2万個」売れる深い理由 「Kobe INK物語」誕生の背景に阪神淡路大震災

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NAGASAWA神戸煉瓦倉庫店に並ぶKobe INK物語(筆者撮影)

時は流れ2018年、第10回日本マーケティング大賞に再度ノミネートされ、「うんこ漢字ドリル」「注文をまちがえる料理店」と並んで奨励賞を受賞した。受賞理由は、「低迷市場における新たな価値創造」。万年筆インクの市場が低迷するなかで、「地域の色」という価値を生み出し、新たな顧客を創造したことが評価されたのだ。

冒頭に記したとおり、Kobe INK物語の年間売上個数は2017年に3万個を記録し、2018年以降も年間2万個以上は売れている。地域とつながりながらインクを作り続けたこと、遊び心あふれるコラボインクを作ったことが、実を結んだのだろう。

そんな流れに呼応したのか、2つの変化が起きた。1つは、インクの売り上げに比例するように万年筆の売り上げが伸びていること。もう1つは、若い人がインクや万年筆に興味を持ち始めていることである。店では、小学校高学年の子が親と一緒にインクを試したり、万年筆やガラスペンの使い方を尋ねてきたりする場面をよく見かけるようになったという。

NAGASAWA神戸煉瓦倉庫店では、Kobe INK物語の試し書きができる。近年は、小学校高学年からインクに興味を持ち始めるケースも増えているという(筆者撮影)

点が線に、線が面に

「定年後のほうが忙しくなった」と笑う竹内さんは、これまでの歩みをこう振り返る。

「震災後10年間のブランクがあるからと、これまで必死にやってきました。苦労しましたが、つらいという感覚はなかった。文具が好き、街歩きが好き、神戸が好き、という点がババッと線になっていく感覚があったからです。そして今は、独創的な面を描く段階にきています」

現在取り組んでいるのは、神戸のミュージアムのイメージカラーを作ること。2022年7月には、1、2色目の発売を予定している。

「神戸には20館以上のミュージアムがあります。個性あるミュージアムのカラーを作って、神戸を文化都市として盛り上げていきたい。同時に、手書き文化も広めていきたいですね」

後継者の育成も欠かせない。「今後は若手社員にも声をかけて、一緒にインクを作っていきたい」と意気込む。

幼い頃からの思い出、震災を経ても変わらない神戸への想い、地域の人の街への愛着。さまざまな思いが詰まったKobe INK物語は、インクが水中でふわりと広がるように、さらなる展開を見せていくことだろう。

三間 有紗 ライター

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みま ありさ / Arisa Mima

1993年生まれ。兵庫県神戸市出身、大阪府在住。京都大学文学部卒業後、大手生命保険会社でインフラシステムの開発・保守に従事。2020年7月からフリーランスのライターとして活動。主な執筆テーマは、ビジネスやIT、アートなど。

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